この論文での主張をまとめてみる。先ずこの特集の主たるテーマである「解離はトラウマ反応か」という根本的な問題がある。それは一応そう捉えていいであろう。解離は一種の防衛であるというとらえ方は定説だからだ。ではそこでストレス―脆弱説(SDモデル)は成り立つのか。必ずしもそうではない。その検討のために、OBEを考えると、実はそればかりではないことがわかる。OBEの場合は防衛本能そのものと言ってもいいかもしれないが、実際の解離では別の人格が創成されるのだ。そしてそこには危機的な状況でのEPの出現という側面だけではなく、安全な環境での子供人格の出現ということがある。そしてその意味でSDモデルでは説明できない人格の創成というプロセスがあるのだ。 ではなぜ人格が創成されるのか。それは結局ICを生み出すメカニズムであり、これは恐らくすべての人が持っていると言っていいだろう。そしてそれは夢の生成過程とも関係しているかもしれない。ICの成立(おそらく一般人に生じている)という素地があり、そこに何らかのトリガーが重なることで、DIDという現象が生まれるのである。トリガーによるスイッチングがないと、これは内側にとどまり続ける可能性があるのだ。 ではなぜスイッチングが生じるのか。先ずその現象自体はいわゆる相転移的な幻聴としてとらえることができるであろう。しかしどうしてそのようなことが人間の心に起きるのであろうか? そのことを最もよく示すのポージスのポリヴェーガル理論(PGT)であろう。それは人間の心身が状況に応じていくつかのモードの間を移り変わるというモデルであるが、それは生存にとって最も必要だからである。そしてPGTの中でおそらく最も優れた点は、社会的な意味を成すVVCを想定したことである。これはトラウマモデルではなかなかで出こない視点としての愛着の部分の重要性、すなわち闘争・逃避だけでなく愛着形成をつかさどる社会脳の活性化を説明しているところである。その中でもポージスのニューロセプションの概念は秀逸である。それが危機的状況での防衛反応としてだけではなく、愛着形成の可能な状況における愛着反応をも説明しているからだ。