2025年11月6日木曜日

ヒステリーの歴史 改めて推敲 6

  変換症のFNSへの最終的な移行にはDSM-5(2013)およびDSM-5-TR(2022)を待たねばならなかった。まずDSM-5では変換症が「変換症(機能性神経学的症状症)」となった。すなわち( )付きで機能性神経学的症状症(FND)と言い換えられたのである。さらにDSM-5-TRでは「機能性神経学的症状症(変換症)」へと変更になった。すなわち変換症の方が( )の中に入り、FNSという呼び方がより正式な扱いをされることとなったのである。こうしてDSMでは変換症という用語の使用が回避され、その代わりにFNDが用いられるようになったが、その流れに乗るかのように、ICD-11(2022)でも変換症という表現が消え、代わりに解離性神経学的症状症が用いられるようになっている。これは実質的にFNDに相当する表現と言っていいであろう。  この変換症→FNDの以降について改めて考えたい。言うまでもないことだが、このFNDの”F”は機能性 functional であり、器質性 organic という表現の対立概念であり、神経学的な検査所見に異常がなく、本来なら正常に機能する能力を保ったままの、という意味である。したがってFNDは「今現在器質性の病因は存在しないものの神経学的な症状を呈している状態」という客観的な描写に基づく名称ということが出来よう。  それに比べて変換症という概念には多分にその成立機序に関する憶測が入り込んでいたことになる。FNDの概念の整理に大きな力を発揮したJ.Stone (2010)を参考にするならば、本来 conversion という用語は Freudの唱えたドイツ語の「Konversion (転換)」に由来する。 Freudは鬱積したリビドーが身体の方に移される convert ことで身体症状が生まれるという意味で、この言葉を用いた。  しかし問題はこの conversion という機序自体が Freudの仮説に過ぎないのだと Stone は主張する。なぜなら心因(心理的な要因)が事実上見られない転換性症状も存在するからであり、この概念の恣意性や偏見を生む可能性を排除するという意味でもDSM-5においてはその診断には心因が存在することをその条件とはしなくなったのであり、それに伴う名称の変更が行われたということになる。