さて以上を下敷きとして、本論の中心テーマであるパニック、恐怖と不安について考えてみよう。おそらくフロイトの現実神経症の記述にみられる極端な性欲論に基づいた理解はなされていないであろう。ただし性愛性に関しては実はトラウマ関連障害やフラッシュバックの問題と直結している。 パニック障害についてはこれが精神力動的治療の対象となることは多い。パニック発作がどのようなストレスにより惹起されるかについては、精神科医は常に注意してなくてはならないが、それが様々な日常的なストレスに関連していることが示される。パニックの患者の多くはその発症に先立ってストレスフルな人生上の出来事や死別、早期の母子分離が関係しているという。ジェロ―ム・ケーガンによる研究では、彼らは子供時代に「見慣れないことに対する行動上の抑制 behavioral inhibition to the unfamiliar 」が関係しているとする。その恐れが親に投影され、親の養育上の矛盾が少しでもみられると、その親を信頼できないと感じてしまう。すると親に怒りが向いて養育上の問題がさらに大きくなるという悪循環が起きるというのだ(p264あたり)。ここらへんに記述されているメカニズムは、実はかなり深い意味を持っている気がする。親の養育の問題ばかりを重視するわけにはいかず、マッチングが問題なのである。後で立ち戻って考えよう。 さていろいろ文献を当たっているうちに Louis Cozolino (2002) The Neurosciene of psychotherapy - Builidng and Rebuilding the Human Brain. W.W. Norton and Company. (邦訳あり)が、少し古いとはいえ最良のテキストという気がしてきた。彼は扁桃核について、パニックやトラウマとの関係を深堀りして解説している。