2024年12月14日土曜日

解離と知覚 推敲の推敲の推敲 1

まだ脱稿しない。少しずつ情報を加え、書いては消し、書いては消し、である。  

 解離症における知覚体験について

はじめに

 解離症における知覚体験について論じるのが本稿のテーマである。解離症の臨床を通じて体験されるのは、患者は様々な異常知覚を訴えることが多いということである。解離症は一般的には、「意識、記憶、同一性、情動、知覚、身体表象、運動制御、行動の正常な統合における破綻および/または不連続」により特徴づけられ(DSM-5-TR)、知覚体験の異常もその他の心的な機能との統合を失うことによる多彩な症状の一つとして見られることが多い。そしてそれらと統合失調症や器質性疾患に関連した知覚異常との鑑別も臨床上重要なテーマとなる。


幻覚及び知覚異常体験一般について


まずは解離症状に限定されない知覚異常一般について考える。知覚体験の異常として筆頭にあげられるものは幻覚である。幻覚は「対応する感覚器官への客観的な入力がないにもかかわらず生じる、あらゆる様式の知覚的体験」(Walters, et al, 2012)とされ、そしてしばしば深刻な精神病理、特に統合失調症などの精神病状態に関連付けられて論じられてきた。しかし実際にはその生涯有病率は5.2%である(McGrth, et al, 2015)。とされる。
知覚異常一般、特に幻覚体験についてはSacks, O (2012) の包括的な書「幻覚の脳科学」が参考になる。

 Sacks は特に脳の一部の過活動により幻覚が現れるメカニズムについて論じ、いわゆるシャルル・ボネ症候群(CBS)について紹介する。これは希な疾患とされていたが、盲目の人の多くが体験する奇妙な幻覚を指す。本症においては大脳皮質に対して入力が途切れた場合、そこに現れたフリースペースに何らかのイメージが投影され、それが幻覚体験となって表れる。そしてこのCBSとの関連で論じるべきなのはいわゆる感覚遮断の状態で様々に体験される幻覚である。
幻覚に関連していわゆる体外離脱体験についての生物学的な起源を探る研究もある。Blanke (2002)は脳の右角回の特定の部位を刺激することによる対外離脱体験に言及する。Sacks はそれに関連して「自己が体から解離する体験は、体からの情報と前庭からの情報を統合できない結果である」
(p.313)と推測している。

Blanke O, Ortigue S, Landis T, Seeck M. Stimulating illusory own-body perceptions. Nature. 2002 Sep 19;419(6904):269-70.