2024年10月9日水曜日

統合論と「解離能」 推敲2

正常な統合の破綻としてのDIDという理解に立てば、DIDの治療は当然統合に向かうべきであろうというのが治療方針として掲げられる。そしてそれを一番推奨したのが1970年代の Richard Kluft, Frank Putnam, Colin Ross, らである。特にKluft は統合論を強く推し進めたという印象がある。 では現在の治療論はどうなのだろうか? DIDの治療のガイドラインとしておそらく一番信頼に足るのは、ISSTD(国際トラウマ解離研究学会)が2010年に発表した「ガイドライン」である。しかしそれを見ると、Kluft の立場からはかなり変更されているように思える。 このガイドラインに出てくる統合の意味についてまず見てみよう。133頁にこう書いてある。「integration とfusion は混同され、用いられている」「fusion は二つ以上の交代人格が自分たちが合わさり、主観的な個別性を完全に失う体験を持つことである。最終的な fusion とは患者の自己の感覚が、いくつかのアイデンティティを持つという感覚から、統一された自己という感覚にシフトすることである。」とある。そしてさらに「ガイドライン作成チームのあるメンバーは、初期の fusion と最終的な fusion を区別するために、unification 統一? という言葉を用いるべきだと主張する。」とある。 つまりメンバーの間でも意見が分かれたというわけだ。しかしいずれにせよ方向性としては治療は統一、統合に向かうべきという前のめりの姿勢が感じられる。 結局このISSTDのガイドラインを読む限りは、integration と fusion の決定的な違いは出てこない。そもそも Kluft 先生が次のように書いている(として引用されている)からこれは変えようがないのだ。