推敲のつもりで読み直したら、グダグダだった・・・・・。ほぼ書き直しだ。
「MUS」はヒステリーの現代版か?
本章ではトラウマと現代的な心身相関問題というテーマで論じる。
まずは「MUS」という概念の話から始めよう。これは「 医学的に説明できない障害 medically unexplained disorder」の頭文字であるが、本章の以下の論述でもこのMUSという表現を用いたい。
このMUSという疾患群は最近になって精神医学の世界でも耳にするようになったが、取り立てて新しい疾患とは言えない。というよりその言葉の定義からして、そこに属するべき疾患群は、それこそ医学が生まれた時から存在したはずである。そして身体医学の側からはMUSはそれをいかに扱うべきかについて、常に悩ましい存在であり、それは現在においても同様であるといえよう。結局MUSに分類される患者は「心因性の不可解な身体症状を示す人々」として精神医学で扱われる運命にあったのだ。
こう述べただけではMUSの意味するところがピンとこないかも知れないが、昔のヒステリーと同類だと考えると、すぐにピンとくる方が多いであろう。MUSを「ヒステリーの現代版」と見なすことで、それがトラウマの問題とどのような意味で関連しているかについても何となくお分かりいただけると思う。
そこでMUSについて論じる前に、改めて「ヒステリーとは何か?」を簡単に振り返ってみる。それは古代エジプト時代から存在し、20世紀の後半までは半ば医学的な概念として生きていた疾患であった。
ここで「半ば医学的な概念」と表現をしたが、それはヒステリーは「患者が自作自演で症状を生み出したもの」、というニュアンスを有していたからである。つまりその症状は本人の心によって作られたようなところがあって、そこには疾病利得が存在するという考え方が支配的であった。言い換えればそれは病気であってそうでないようなもの、という中途半端な理解のされ方をしていたのである。そしてその意味ではヒステリーと呼ばれる患者たちは常に差別や偏見を向けられる傾向にあったのだ。
幸いDSM-Ⅲ(1980)以降はヒステリーという名前が診断基準から消え、その多くの部分が転換性障害や解離性障害ないしは身体化障害という疾患概念に掬い上げられた。そして患者が差別や偏見を向けられる度合いは多少なりとも軽減したのである。
医学は時代とともに進歩し、検査の技術も発展を遂げてきている。そしてそれまでは医学的な所見の見いだせなかった疾患の中にも、医学的な説明が出来るようになったものもある。たとえばてんかんはそのドラマティックな表れからヒステリーと分類されていたが、脳波異常が見出されるようになりヒステリーやMUSの分類から抜け出していったものである。
しかしそれでも医学的な検査に根拠づけられない身体症状を示す人々が このMUSの中に残されることになったのである。そしてかつてヒステリーに対して向けられていた偏見も、実は現在のMUSにもある程度は向けられる傾向にあるのである。