2022年1月7日金曜日

偽りの記憶 推敲 3

 忘れられない病

 いわゆる超記憶に悩む人たちがいる。この本ではそのような超記憶を、いわゆるハイパーサイメシア、エイデティカ―、サバンの三種類に分けている。二番目のエイデティカ―は、いわゆるフォトグラフィックメモリーのことであるが、ここは省略する。
 最初のハイパーサイメシアについてであるが、AJという人は、過去の出来事を何年何月何日というレベルでことごとく語ることが出来、それは彼女が詳細につけている日記によってその正しさが証明できるというのだ。研究者たちはこれを「ハイパーサイメシア」(超記憶症)ないしHSAM (highly superior autobiographical memory)名付けた。そしてこのような桁外れの能力は現在では世界中で少なくとも56人が確認されているという。

さてこのメカニズムを説明するためにペンフィールドは大胆な理論を提出したという。それは脳の中にはPCみたいな装置があり、すべてを記憶している部分があり、私たちはそれにアクセスできないというものだ。HSAMの人たちはたまたまそこにアクセスするカギを持っているからそれが可能だという事になる。しかしこの理論は今ではあまり受け入れられていないという。さてここからが面白いのだが、彼らはHSAMに過誤記憶を作ることがどれほどあるかを調べたという。ある話をし、あるいはある映像を見せ、後にその詳細について尋ねる。そこに誤ったものが含まれると過誤記憶というわけであるが、HSAM群は非HSAMよりも不正確な細部を受け入れる傾向が強かったという!!
 こんな実験があるという。ある架空の事故について説明し、それが広くテレビニュースやネットで流されていると伝え、その映像を見たことがあるかと尋ねる。するとHSAM29%、非HSAM20%が実際にそれをテレビで見たことがある、という過誤記憶を報告している。これは人がいかにうそを信じやすいか、という話ではなく、記憶の生成そのものがそのような過誤記憶を生み出す性質を持つからであり、HSAMの人々はその力が強いために過誤記憶もより多く生み出すということだ。
 ちなみにHSAMのメカニズムについては、コリンズとロフタスによる「活性化拡散モデルspreading activation model」というのがあるという。要するにある単語や概念が四方八方に連なっていて、そのうちの一つが興奮すると周囲にその影響がいきわたり、周囲を活性化させるというモデルである。
 要するにHSAMの人たちはいわば蜘蛛の巣状に広がった神経細胞の組織の結び目が極めて太いということであろう。

他方のにサバンについては、これはHSAMとはある意味で逆の性質を有する。HSAMの人々は個人的な記憶、自伝的な記憶が異常に優れているが、事実や情報などは普通である。ところがサバンは個人的な記憶ではなく、事実と情報に限られる。こうして二つの超人的な記憶のパターンが紹介されたが、残念なことに、結局は彼らの異常なほどの記憶力の秘密は解き明かされていないということになる。 

 PTSDについて

PTSDもまた忘れられない病ということが言える。この病気ではいわば忘れられないトラウマ記憶にさいなまれるわけであるが、それ以外にも記憶の問題がみられるという。PTSDの患者と一般人に記憶力テストを行い、一連の単語を見せた後、それを覚えておくか忘れるかを被検者に指示する。すると、PTSDの患者の方が記憶できた単語数が少ないという。ところが興味深いことに忘れるように言われた単語は逆に余計覚えているという所見も明らかになった。つまりPTSDでは「忘れる」能力が低下しているということなのだ。