2021年6月14日月曜日

オンラインと精神療法 5

 2.オンライン・セッションに関する個人的な体験

 私の体験からお話すれば、私は昨年の春まではZOOMを用いた対話というものをほとんど体験していなかった。それが心理面接やスーパービジョンの代替手段になるともあまり真剣に考えていなかったし、それを用いたカンファレンスや研究会にもそれほど興味を持っていなかった。実際の対面での面接や研究会などにはとてもかなわないだろうと思っていたからだ。しかしコロナの影響でやむを得ずZOOMなどを様々な場面で用いることになり、OSは思っていた以上に活用ができることに驚いているというのが正直なところである。ただしOSは、カメラ・オンとオフでかなり異なるという実感があり、時と場合により使い分ける必要があると考えている。

 カメラ・オンの体験

ZOOMなどでお互いにカメラ・オンで行うOSは、設定によっては相手の顔が大写しになり、自分の顔も大写しになるという特徴がある。ZOOMを用いるようになり、私たちの多くはセッション中の自分の顔をまじまじと見るという体験を治療者として初めて持ったのではないか。そしてこれは一部の自己愛的な傾向を有する治療者を除いては、あまり心地いい体験とはなっていないようである。私自身はたとえカメラ・オンの場合でも私自身の顔は見えないようにしたり、きわめて小さいサイズに保ったままにしたりし、相手の顔もかなり小さくする傾向にある。そして相手側がどの様な設定にしているかは、カメラ・オンか、オフか以外にはわからないので、かなり個々のユーザーに自由な選択の余地があることになる。例えば相手がカメラ・オンでも、こちらがその顔を意図的に遮断するということが可能なのであり、これは対面のセッションでは不可能なことである。つまりこちらが相手の顔を見ていないことを、相手が気が付かないという状況をOSでは作ることができるのだ。

ここで一つ気が付くことだが、カメラ・オンのOSは、それでもクライエントとの視線は決して正確には合わないということである。ふつう私たちはモニターに映ったクライエントの顔に向かって話す。決してカメラに向かって、ではない。そしてクライエントもモニターの私に向かって話すのであり、カメラに向かってではない。ということは両者は決して正確には目線を合わせることができない。目線を合わせようとすると両者がカメラに向かって話すことになるが、そこには相手の顔は映っていないことになる。逆にもし相手が自分の目を見据えて話してきていると感じたら、実は相手はこちらの目線をそらせてカメラを見ていることになる。(実際にカメラオンにした時の自分と目線を合わせようとしてみるとよい。決して自分と目を合わせることはできないのである。)私は実はカメラオンのOSが持つこの特徴は、視線を合わすことのストレスをかなり軽減しているのではないかと考える。しかしこの件はまた後程改めて論じよう。

 カメラ・オフの体験

それに比べてカメラ・オフでは、寝椅子を用いたセッションにとても似せることができるという印象を持った。カウチを用いたセッションの一番の特徴は、クライエントが横になり連想をするということ、そしてもう一つはその間お互いに視線を合わせないということである。その意味ではお互いにカメラ・オフにして行うセッションは、寝椅子を使ったセッションの代替手段としてとてもうまく行くという印象を持つ。最初と最後だけカメラ・オンにして挨拶をし、セッション中はオフにし、あとはクライエント側がヘッドギヤを装着して体を横にすることで、寝椅子を使ったセッションにかなり近い状況を再現できるのである。(先ほどの議論を思い出せば、OSでは視線を合わせる対面の状況は決して再現できないが、寝椅子を用いた状況はそれをかなり正確に再現できることになる。)ただし私はそれを週一度の寝椅子を用いたケースに対して行っているだけであり、週4回のケースに対しては試していない。週4以上のケースでは同じようにカメラ・オフで面接を行った場合にどこまで同じ雰囲気を再現できるかどうかは私には実体験がないのでわからない。おそらくかなり違ったものになるのではないかと想像する。