2020年1月24日金曜日

こころのデフォルト状態としての揺らぎ 推敲 2

そもそも私たちの脳は、「何もしない」「なにも考えない」という活動は許されない。少なくとも脳は何もしていなくても、莫大なエネルギーを消費して「活動」を行っている。それは現在の脳科学では常識になりつつあるが、その知見も比較的最近になって得られたことだ。
脳科学者ノルトフは、以下のように記載している。(「脳はいかに意識をつくるのか―脳の異常から心の謎に迫る ゲオルク・ノルトフ (著), 高橋 洋 (翻訳) 白揚社、2016年」)
人間の中枢神経系は、何もしていないとき、安静にしているときでも自発的な活動をしており、それは脳の中央部に集中した領域で、彼が「正中線領域 CMS」と呼ぶものである。そしてそこでの活動は「安静時活動resting-state activity」と呼ばれる。そしてその動きを脳波という形で記録すると、その波形は非線形的であり、非連続的、予測不可能なものとして特徴づけられるというのだ。一見単調な繰り返しに見えて実は一回ごとに異なり、決してその将来を予測できない。つまりはまさに「揺らぎ」なのだ。そしてその視点から心のあり方を考えるのが、彼らの提唱する「神経哲学neuro- philosophy」という分野であるという。
ここで安静時活動というものの意味についてだが、従来は、精神の活動は外界からの刺激に反応することにより確かめられていた。それが外因的かつ認知的な脳へのアプローチだが、脳は外からの刺激に反応をする以外は、静かに休んでいるものと思われがちだった。しかし決してそのようなことはなく、休んでいるように見えても、活発な活動を行っていることが最近のfMRIなどの研究によりわかってきたのだ。
そしてそれが後に述べる「デフォルトモード・ネットワーク」の活動に対応するのである。このデフォルトモード・ネットワークの活動は、脳全体がグローバルに情報を伝達処理する活動に相当する。脳の一部でしか処理されていない情報は無意識にとどまるが、それが脳全体に広がる際に意識が生まれる。そしてその際ゲートキーパーの役割を果たすのが、この正中線領域に属する前頭前野・頭頂野であるという。これらの部位は、局所的な動きを全体に移して意識化させるか、それが無意識にとどまるかを決めるという。
この脳のデフォルトモード・ネットワークにおける脳の安静時活動は、実は私たちが持つアイデンティティの感覚に重要であるとノルトフは言う。そして活動が「通時的な不連続性」により特徴づけられるという。これは私たちが本書で論じているような揺らぎの性質をまさに言い表している。脳波が連続的でパターン化し、最終的に定常状態に達した場合、さらにはフラットな状態になったり、逆にてんかん発作時の高振幅のリズミカルな棘波-徐波パターンが出現した場合は、意識の消失を意味するということから分かる。そしてさらに議論は自己連続性に時間のファクターが決定的であるという点に移る。