2019年9月21日土曜日

発達障害とパーソナリティ障害の微妙な関係 2


他方のパーソナリティ障害についてはどうか。これも手短にまとめてみよう。従来DSM ICD は情動、認知、対人関係の持ち方における病理性に基づき十前後のパーソナリティ障害を提示していた。ボーダーライン、反社会性、自己愛、スキゾイド、などなどだ。その後趨勢はいわゆる「ビッグファイブモデル」にシフトし、どの程度病的パーソナリティ特性が反映されているかにより分類するといういわゆるディメンジョナル・モデルへと移行した。否定的感情(不安や敵意の度合い)、離脱(どの程度引きこもりや孤立が見られるか)、対立(どの程度操作的、冷淡、敵意などが見られるか)、脱抑制(どの程度衝動性、無謀さ、完璧主義が見られるか)、精神病性(どの程度風変りさ、異常な信念を持つか)のうちどれが高くてどれが低いかによる分類である。これらのうち高いスコアを示すものは、それだけ正常範囲から偏奇したパーソナリティを有するということになる。
しかしこれらの分類には、そのような自分のパーソナリティの偏奇を自分自身がどれだけ自覚できているかという変数は含まれない。たとえば否定的感情が強いパーソナリティを持つ人は、それにより他者にどのような受け取られ方をしているかについての自覚自体は問われていないことになる。逆に言えば、それらについての自覚がもてない場合には、そこに「他者の情緒を感じ取れない」というファクターが絡んでいることになる。これは先ほどのASDの特徴だが、パーソナリティ障害は、当人が自らのパーソナリティを自覚しない(出来ない)場合に同時にASD、BA の要素を有するということになる。 



ここで誤解を招くことを恐れずにひとつの非常に単純化した図を示す。右側の大きな青の楕円はパーソナリティ障害であり、左側のオレンジの楕円はASD、BA を示す。両者には重複部分がある。まずなぜASD がパーソナリティ障害と重複するかというと、ディメンショナルモデルで考えると、ASD を有する結果として示される見かけ上のパーソナリティの偏奇は、容易にパーソナリティ障害を満たしてしまうからだ。ここでたとえば上記のビッグファイブのファクター、つまり否定的感情、離脱、対立、脱抑制、精神病性のいずれも発達障害の二次的な結果は除く、という断り書きはないからだ。そして当然ながら、「他者の情緒を感じ取れない」ことの結果としておきうる問題はこの5つのうちどの要素もそれを高値に押し上げる可能性を有する。つまりそれは上に述べた他人に対する猜疑心(否定的感情、対立)にもつながり、あるいは知的活動などに没頭して孤立する傾向(離脱)にもつながり、時には奇矯な行動(脱抑制、精神病性)にもつながる可能性がある。だからASD、BA のかなりの部分はこの(見かけ上の)パーソナリティ障害にも属してしまう。(ただしパーソナリティ障害に属することのないASD, BA 者もいることを想定し、オレンジの楕円には、青の楕円にかからない部分を残してあるのである。)