2019年8月30日金曜日

人は分子のごとく・・・ 1


人は分子のごとく揺らいでいる
いつか、マーク・ブキャナンの「歴史はべき乗則で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)という本の紹介をしたが、実はブキャナンの本は他にもいくつかが訳されている。その中で注目したいのが、

人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動」白楊社、2009年という本である。原書の題は、「社会的な原子the Social Atom」。つまり人はいわば原子のような振る舞いをしているというのだが、ここでこの著書の提案が大切なのは、モノの揺らぎが、心の揺らぎにどのように接合しているかを問うために格好の素材を扱っているからである。ブキャナンは実は物理学者である。彼は完全に理系的な目で人間の振る舞いを観察し、私たちが犯しがちなひとつの過ちを見出す。それは人文科学者は特にであるが、人ひとりひとりが理性的にかつ独自に、かつ因果論的にふるまっているという前提があるというのだ。彼は私たちが何事についても説明するという事に警戒する。私たちが何かを説明するとしたら、それは常に事後的である。ところが私たちは未来を予測することなど全くできていない。証券会社の株の予測はことごとく外れているのである。
 ブキャナンは物理学者であることもあり、人の動きを占なうのは人を分子ないしは原子に例えて、それらの全体的な流れのパターンから説明するべきであるという。それがこの本の「社会的な原子」という題の由来である。
 さてそのままでは人の行動があるまとまった動きを起こすのかが分からない。たとえば株価の暴落や、突然の暴動や、ある曲の流行などである。それを説明するものとして彼が考えるのが、いわゆる自己組織化である。いわばパターンは自然と生じてくる。それはある種のポジティブフィードバックのような形で生じ、その点では自然界でも人間でも変わらないという。自然界ではたとえば雪の結晶のような無生物のきれいなパターンが作られるが、生命体でも同じである。その中で虎の縞や豹の円のパターンなどは、個々の細胞の一つ一つがそれを作り上げているというよりは、そこで自然とある種の集団的な動きが組織化されるのである。そこには関係している細胞たちの間に影響が及ぼされ、フィードバックループが形成されるという形で形が生み出されていくわけだ。ここに私の好きな柱状節理(無生物)のパターンとオウムガイ(生物)のパターンを紹介しよう。どちらも素晴らしいではないか。
柱状節理(大辞林第三版より)
 
オウムガイの断面