2. 原家族によるトラウマの理解
解離性障害が生まれる家庭背景としては、厳しいしつけや虐待が考えられる傾向があります。解説書によっては、解離性障害の原因としてほとんど幼少時の虐待が原因であると言い切ってしまっている場合もあります。上の「1.はじめに」でも、確かにそのような例を出しました。ただしこのような理解には注意が必要です。極端な話、幼少時のトラウマが家庭外(たとえば預けられた親戚の家、学校でのクラブ活動など)で起きていて、当人はそれを両親を含めた誰にも話せない状況が続いていた可能性もあります。ただし一つ言えるのは、幼少時に圧倒的に長い時間を過ごしたはずの家庭で、ある種のトラウマ的な体験について話したり、理解してもらえなかったりしたという状況が長期間続いていたであろうということです。そしてそこには長期間の家族の実質的な不在(親の精神的な病、仕事により家を空けることが多い、など)も含まれます。ただしおそらく一番大きな要因は、子供が恐怖や不安、不快を体験しつつ、それを表現することを両親から直接的、間接的に止められていたという事情でしょう。子供はあることを話したり、伝えたりすることで親を悲しませたり、憤らせたりするという事情をきわめて敏感に察知するものです。そして時には親が気付かぬうちにそれに従い、心の一部を押し隠します。これは多くの子供がその成育過程で行っていることですが、生まれつき解離傾向が強い子供はそのような時に心の中に別の中心が出来上がり、その部分が交代人格となり、主たる人格が表現できない感情を担うようになるのです。
この様なプロセスは親の側からはどのように見えるのでしょうか? 場合によっては子供はごく自然に自分の意向や躾の方針に従って育っているのだと信じ込んでいる可能性があります。人間はとかく自分を正当化しがちです。昨今報道される虐待の事例からもうかがえますが、親の多くは子供に対する躾のつもりで体罰や精神的な圧迫を与えるのです。子供が自己主張をしなくなることが、自分の教育方針が間違っていないのだという確信を強めるとしたら、これほど不幸なことはありませんが、実はこれは解離性障害や支配―被支配の関係性が成立し、発展する一つの典型的なパターンなのです。