2013年10月27日日曜日

エナクトメントについて考える(4)

試した。すごい切れ味!(もういいって)

エナクトメント概念の最近の流れ
さてエナクトメントの概念が精神分析の中でより大きな意味を持つようになった背景には、いわゆる関係性の理論の広がりがあると言えるだろう。エナクトメントは患者の側のみ、ないしは治療者の側のみに起きていることとして考えることにさほど醍醐味はない。そうではなくて、両者の関係性の中で何がエナクトされるか、という問題の方が臨床的に見て異議深く、また興味をそそる。
関係性理論においては、治療者患者関係は繰り返しという部分と新しい部分の両方を含むと考える。患者も治療者も、お互いを過去に出会った人にかぶせて関わっているという部分と、それ以外の全く新しい関係性として係わっているという部分がある。人との出会いで自分の思いがけない部分が出ることがあり、それは治療者側も患者側も同じなのである。
精神分析には転移、逆転移という概念があるが、それは伝統的には過去に持った対象との関係の、新しい場面での繰り返し、という理解のされ方をしてきた。私たちは育つ過程で、養育者、多くは母親や父親との関係性を、他人との関係の持ち方のいわばプロトタイプとして取り入れていく。それは健全な面と神経症的な面を含むことになる。わかりやすく言えば相手の顔色をうかがう傾向とか、相手に媚びる傾向とか、本心を表さない傾向とか、相手に甘える傾向だとか、ということになるが、それは重層的で、心の様々な層で相手への表出の仕方が異なる、その人に身についた一種のかかわりの複合的なパターンといえる。そしてそれは母親や父親と異なる人に出会っても無意識的な形で発動され、繰り返されることになる、というのが伝統的な考えだ。
さてこのように考えると、転移、逆転移という現象が、すでにエナクトメントとしての意味を持っていることになる。その人の身についた、無意識的に繰り返されるパターンとは、まさにエナクトメントの定義を満たしている。ただしそれはあくまでも繰り返し、でもある。
関係性の理論で論じるエナクトメントは、いわば繰り返されるパターンとは違うエナクトメントである。わかりにくいだろうか?
こんな風に書いてみる。 エナクトメント=繰り返しの要素 + 新奇な要素

関係性の理論が注目するのは、エナクトメントの持つ新奇な要素の方である。と言ってもちろん繰り返しの要素を無視するわけではない。しかしそれは古典的な精神分析理論がこれまで十分に関心を払ってきた部分なのだ。