2013年9月6日金曜日

トラウマ記憶の科学(3)

ただこのようなことがまれにでさえ起きることは、記憶のあり方の一つの性質を如実に伝えていることになりはしないか?それはすでに固定されている、たとえばレコード盤の上の凹凸という形で記されている記憶内容の上をレコードの針がなぞる(こんな比喩もそのうち通じなくなるだろう。いや、すでにもうなっているか?)という事が起きるのではないということだ。あえて比ゆ的に言えばこんなことになる。それこそレコードの針が触れるごとにレコードの表面が一度柔らかくなり、最終的に固まった時の凹凸は、最初とは違っているという感じである。ただしもちろん普通の思い出し方をしたのでは、レコード盤の凹凸は固まったままだ。ある特殊な思い出し方をするというのがミソらしい(後述)。
 このことを示す一つの手がかりとして明らかにされたのが、ドクタル・ドゥ(LeDoux….なんというフレンチな名前)らの2000年前後の研究だ。この場合動物に中立的な(つまり特に痛み刺激や快感刺激ではない)刺激を与えて、そのあとに不快刺激を与え、その際に扁桃核にタンパク質合成阻害剤(アニソマイシンなど)やメッセンジャーRNA阻害剤を注入すると条件付けが阻害されるというものだ。(Bailey DJ, Kim JJ, Sun W, Thompson RF, Helmstetter FJ. 1999. Acquisition of fear conditioning in rats requires the synthesis of mRNA in the amygdala. Behav Neurosci 113: 276–282. ダメだ。読者に読みやすいように書き始めたのに、とうとう英文の参考文献まで出て来てしまった・・・・。やはり将来本にまとめようとしている下心が出てしまった。