2012年9月14日金曜日

第4章 マインド・タイム ‐ 意識と時間の不思議な関係 (1)


BLの偉大な実験
 Benjamin Libet は日本ではあまり知られていないかもしれないが、チョー有名な神経科学者である。1970年代に彼の行った実験は極めて画期的なものだった。ちなみに彼の名前を見ると私にはどうしても「リベー」(フランス語読み)と発音したくなる。彼の祖先はフランスから移民したはずだ。しかし正式には「リベット」らしい。(というよりアメリカではそれで通用しているらしい。何しろ彼の実験について書かれた「マインドタイム」(下條信輔訳、岩波書店、2005年)の訳者の下條先生も「リベット」と書いているのだ。そこで妥協して以下はBLと表記させていただく。
 実は私はBLの行った画期的な実験のことを知ってはいるが、心から理解してはいない。初めて読んで10年以上経っているが、考えているうちにどうしてもわからないことが出て来る。しかしそれは読者に判断してもらうとして、簡単に紹介する。
 彼はある実験を行って、その結果として「人はある行動を起こそうと思った瞬間には,脳はその約0.5秒前にすでにその行動に向けての活動を開始している。」という結論に至った。そのBLの実験は、被検者に好きな時に指を動かすという、それ自体は非常に単純なものだった。彼は特別な時間の計測装置を考えだし、被験者が自分の指を動かそうと思った瞬間をコンマ一秒のレベルで正確に記憶出来るようにした。そしてその被験者の脳波を同時にとったのである。すると不思議なことに指を動かそうとした瞬間の0.5秒前に、脳波上の活動が開始することに気付いた。それを示すのがこの図である。Wの地点は「よし動かすぞ!」という気持ちになった時の時間で、これは実際の指が動き始める200ミリ秒前であった。これ自体はわかる。しかし脳波を見ると、実は550ミリ秒(つまりおよそ二分の一秒)前から、ゆっくり立ち上がっているのだ。一体これはどういうことだろう、ということにBLは関心を持った。

 この実験が示しているのは、私たちがあることを意識する、気がつく、ということと脳の働きとの時間的な関係だった。どうやら私たちが何かを意識するそれ以前に、脳はそれを扱い始めるらしい。たとえそれが純粋な自由意思で行われていると自分では考えていても。ということは脳を動かしているのは私たちの自由意志ではない?…
 実はBLはもう一つ興味深い実験も行っている。こちらは本章の趣旨とは少し外れるが、やはりかなり興味深いものなので、ついでに紹介しておこう。手術のために開頭している患者に協力を依頼し、その大脳皮質を直接刺激するという実験だ。大脳皮質に弱い電流を流してみると、それを0.5秒以上刺激しないと、その人はそれに気がつかなかったという。そこでその大脳皮質に神経を送っている身体の部位、例えば腕を刺激すると、10から20ミリ秒程度で刺激を感じる。しかし500ミリ秒の脳内の電気反応があって,意識に感覚が生じる。ただしそれは500ミリ秒の遅れがなく感じるようになっているということだ。そのことを示しているのが以下の図であるが、一番下の(retroactive)referral time というのがこの500ミリに相当する。


 ちなみにこのBLの実験を非常に簡潔にまとめたサイトを見つけた。詳しくはそちらを参照していただきたい。 http://www.yamcha.jp/ymc/DSC_sure.html?bbsid=1&sureid=63&l=23