2011年4月27日水曜日

精神科30分面接

新たな原稿を書く必要性が生じた。今度は精神科医が行うインテーク面接についてのものである。精神科医が初診で患者と会って最初の30分以内で診断的な見立てを行い、それを患者にフィードバックし、治療方針を決める、というところまで持っていくにはどうしたらいいのだろうか?これは精神科医が実は毎日のように行っていることでありながら、方法論が定められていず、教科書もないという驚くべき事情がある。
例えばゴルフを学ぶなら、最初にクラブをどのように握るか、というところから入るだろう。ところが精神科の面接の教科書には、いきなりコースに出たところから論じ始めるか、あるいはそのような教科書すらも全然存在しないかもしれないのである。それぞれの教育機関で作られているものはあるかもしれないが・・・・。そこで精神医学の先進国(ある意味では、であるが)米国ではどうかと言えば、これがあまりないのだ。その代わり・・・・それを試験官の前で行わせて合否を決めるというコワーい試験がある。アメリカで精神科のレジデントを終えて2年ほどすると、精神科の専門医 board certified psychiatrist になるための実技試験を受け始める。この試験に合格するために、アメリカの精神科医の多くがこの30分面接に頭を悩ませるのだ。合格率は6割程度だが、この実技試験は、私のような外国人の医師にはかなりきつい。ヒアリングの悪さが露呈してしまうのだ。
私はこの試験のことを実によく知っている。というのもこの試験に○回も落ちたのだ。一年に一度チャンスがあるこの試験のための練習をし、受け、惜しいところで落ちというところを何年も続けたために、かなりの方法論を身につけることが出来た。私に最後まで欠けていたのは、英語の聞き取りの力により患者(実際の患者が日当を支払われた上で用いられる)が語る内容のわずかなニュアンスをつかむ能力だったのだ。
思い出すだけで辛い思いであった。カリフォルニア州ロサンゼルス、フロリダ州タンパ、カリフォルニア州サンディエゴ、コロラド州デンバー、オハイオ州シンシナチ、ワシントン州シアトル・・・・しまった。これだけあげると、何度落ちたかバレてしまうではないか。)
実はこの試験、筆記試験と実技試験がある。筆記試験を受かったものが3回の実技を受けることが出来る。これを3度落ちると再び筆記試験。それに受かるとまた3回の実技試験が受けられる。自らの名誉のために言えば、私は筆記に関しては一度も落ちなかった。いつも高得点でパスである。そして実技であえなく撃沈を繰り返した。筆記も実技もアメリカのあらゆるメジャーな都市で行われるのであるが、もちろん飛行機代もホテルの滞在費も、受験料も持ち出しである。観光の名所に行き、筆記試験のプレッシャーにおびえながら、また落ちるのかと暗い予想が頭をよぎり・・・・。街を歩く観光客たちをしり目にホテルに籠ってシャドウボクシングならぬ「シャドウインタビュー」に明け暮れた。つまり目の前に患者をイメージして、30分面接をしてみるのである。
最後に私を救ってくれたのは、ICボイスレコーダーだった。自分の30分インタビューを何度も録音しては聞き直し、自分の発音の癖、聞き取りの苦手な部分を修正するということで始めて私がこの試験にパスした時は、実は2004年の帰国が近い将来に迫っていたのである。
ということで暗い思い出話はそのくらいにして・・・・
30分面接と言っても漫然と患者と雑談するわけではない。おそらく一分一分が何らかの意味を持ち、ストーリーを追う形で過ぎていく。そこではあらゆることが起きうる。患者が突然泣き出すかもしれない。インタビュアーの態度に腹を立てるかもしれない。それらに動じることなく、あらゆることを想定内に収めつつインタビューを進めていくのだ。これは一つのドラマといっていい(続く)