2026年3月5日木曜日

共感とその限界 3

  (承前)

 このAIからの返答を読む限り、これは相手を「褒める」ように指示されているというよりは、マナーを守ってより高い水準のコミュニケーションを成立させようと言う試みの一環であることがわかる。つまりこういうことである。AIが目指すようにセットされているのは、対話者(すなわち人間)と少しでも質の高いコミュニケーションを達成することであり、単に相手を褒めていい気持ちにさせて会話を切り上げる、というような短期的な目標によるものではない。むしろそのような短期的な目標を持つのは常に人間の側である。  例えばある交渉事を有利に進めたい場合には、相手を少しでも持ち上げて警戒心を下げ、こちらの言い分が通るように話を持って行きたいかもしれない。あるいはそのような功利的な目標を持っていなくとも、普段の会話の中で相手の優れた点を指摘することは、それにより相手からの感謝や好意を向けられることで自分もいい気持ちを味わいたいということであろう。つまりそれは結局はこちら側のエゴである。  ところがその種の感情を持たないAIの場合、そのような目先の目標は意味をなさないのである。AIは首尾よく会話を切り上げよう、などとは考えない。感情がそもそもないからだ。むしろどのように話者と長期的な意味で質の高いコミュニケーションを維持するかという事を追求する上で、「相手の主張のポジティブな部分は積極的に評価する」はいくつかあるほかのストラテジーと並列して存在するのであろう。そしてそれはその通りなのである。私たち一人一人が自らに問えば当然、相手に自分の主張のポジティブな面をとらえ、それに言及して欲しいであろう。ただしそれを自分から対話者に対して行うかどうかは全く別の問題である。私たちはみな多少なりとも自己愛的であり、自分が与えるより多くのものを相手から享受したいと思い、普段はその事実に気がつかないのだ。そしてAIにはその種の自己愛は存在しない。