ところでこのセックス依存 sex addictionという概念は、識者の間でも非常に議論が多く、DSM-5からは外れたが、その代わりにICD-11には強迫的性行動 compulsive sexual behavior (CSBD)という疾患が掲載されている。そしてこれは「薬物使用と嗜癖性の行動 substance use and additive behviours」のカテゴリーには入らず、衝動制御障害 impulse control disorder に分類されていることが特徴である。それはこの行動が嗜癖に属するかどうかについての情報を十分に持ち合わせていないからだという(Kraus SW,2018)。
Kraus SW,et al (2018) Compulsive sexual behavior disorder in the ICD-11. World Psychiatry. 17(1):109-110.
ところである行動が嗜癖か強迫かという議論はかなり学問的な話だ。確かに両者は脳科学的には区別される。その区別は微妙だが、あえて言うならこう言うことだ。
嗜癖:心地よいことが、くりかえされ、止められなくなる。(衝動 impulsion に類似とされる)
強迫:心地よくないことが、繰り返され、止められなくなる。(強迫 compulsion )
つまりimpulsion と compulsion は違うよ、という理解の仕方だ。
ところがこの両者は区別がつきにくいことが多い。タバコがやめられないのは嗜癖だろう。でも吸っていて美味しくなくなってきても止められないのが嗜癖の特徴なのだ。それにそもそもICD-11 のCSBDの分類のされ方が矛盾している。なぜなら compulsive sexual disorder(6C72) は Impulse control disorder に属している。あたかも compulsion と impulsion の両者は同じものとして扱っている。そしてそれはあくまでも addiction ではないという。
敢えて式にすれば、 addiction (嗜癖)≠ impulsion, compulsion
ということになる。
ところで先ほどの「 compulsion と impulsion は違う」という理屈は、私にとってのバイブルでもある Stahl 先生の精神薬理のテキストからである。彼はこれを impulsive-compulsive disorder に分類し、impulsion と compulsion の間にある微妙な差に言及して、それが脳科学的にも異なる部位で扱われているとする。しかしそこに薬物依存も行動依存も含めている。つまり結局は
addiction (嗜癖)= impulsion ≒ compulsion
恐らく両者の違いは結構微妙なのであろう。むしろこの辺は深堀りしてもあまり意味がないような気がしてきた。そこで取りあえずの結論。
いわゆる性依存と呼ばれるものの存在を認めよう。それが嗜癖か強迫かは学問的には難しいながらも、一応そのようなものの存在を受け入れるのだ。