2023年1月3日火曜日

発達障害とPD 推敲 2

 さて以上の私の体験と同時に、精神医学ではASDPDをめぐりもう一つの変化が起きていた。いま述べたスキゾタイパルPDPDから独立して統合失調症関連障害として位置づけられることとなったのだ。ICD-11では「統合失調症又はその他の一次性精神症Primary Psychotic Disorders の一つに、schizotypal disorder スキゾタイパル症(パーソナリティ症ではなく)として掲載されているのだ。ちなみにこのスキゾタイパルPDとは「関係念慮、奇妙な/魔術的思考、錯覚、疑い深さ、親しい友人の欠如、過剰な社交不安」を特徴とするものとして、DSM-Ⅲ(1980)当初から10PDの一つとして掲載されていたものである。つまり孤立傾向をのぞいたらかなりスキゾイドの定義とは異なり、統合失調症の一歩手前という印象だ(実際DSM-5では統合失調症の病前に見られる状態についても「統合失調型PD(病前)」としてこの存在を認定することが出来るようになっている)。ところで私個人としては正直このスキゾタイパルPDASDとの相関について頭を悩ませることはなかった。しかし欧米の文献ではこの両者の区別についての研究も散見されるので、この問題についても本稿で触れる必要がある。このスキゾタイパルPDの特徴として社交不安が上げられているのは注目に値する。つまりスキゾイドPDはドクタースポックよりは、恥の感情に悩む回避型PD的な特徴を持つことになり、先に述べた私の臨床的な体験の第二番目に関連してくるからだ。

ところで世界的な診断基準ではASDPDとの鑑別についてどのような立場を示しているだろうか?DSM-52013)ではASDの鑑別診断としてPDは意外にも掲載されていない。しかしPDの記載にはスキゾイドPDとスキゾタイパルPDについてのみ ASDとの異同に関する言及がある。またICD-112022)ではASDとの鑑別としてスキゾタイパルDPD一般、社交不安症を挙げている。しかしそれらの記載を見ても、両者の厳密な鑑別を求めているわけでもなく、むしろこの問題は曖昧な形で扱われているという印象を受ける。

この言い方だとやはりしっかり区別、鑑別すべしというメッセージにもとれる。

ここで海外の文献もいくつか参照してみよう。スキゾイドPDASDの違いについての研究は散見されるが、そこで強調されることの一つは、ToM(セオリーオブマインド、心の理論)ないしは社会的認知(social cognition SC))との関連である。ToMとは要するに他人の心の状態をどの程度理解できるかという問題である。ある研究はASDとスキゾイドPD、スキゾタイパルPDとの鑑別が一番難しいというDSM-5の記載を受けて、両者における社会的認知の欠陥の程度を調べた。Booules-Katri らはadvanced ToM test を、ASDとスキゾイド/スキゾタイパルPD、コントロール群に実施した。このadvanced ToMというテストは情緒コンポーネントと認知コンポーネントに分かれるが、ASDでは両方が低かったのに対し、スキゾイド/スキゾタイパルPDでは明らかに認知コンポーネントが低かったという。またStanfield 達はfMRIで社会的認知を調べ、扁桃核の興奮がスキゾイドタイパルPDで見られたという。そしてこれはASDではSCが低く、スキゾイドでは高いという説だけでなく、スキゾイドでも感情は動いているということを示していることになる。

またASDPDとの関連ではBPDも話題になる。ちなみに私はこれも以前から疑っていたことである。BPDの人で、特に他罰傾向の強い人たちには、発達障害の傾向があるのではないかと思うことが前からよくあった。研究③によれば、「ボーダーラインとASDの両者とも他者の気持ちを理解したり、対人機能を発揮したりすることが苦手だ」たしかに。「そこで624人のASDの人と、23人のBPDの人と16人の併存症の人、そしてたくさんのコントロール群を対象に、AQテストと共感性質問票EQempathy quotient)、システム化質問票―改良版SQ-Rを行ってみた。」

するとAQテストでは、BPDの人はASDの人たちほどではないが、コントロール群よりも、そして併存症群よりも、高いスコアを示した。そしてEQではBPDの人は併存症の人とASD の人よりは高い点数を示した。またSQRについては両群がコントロール群より高かったという。つまりはBPDASDのようにAQが高く、システム化する傾向(つまりある種のこだわりの傾向)にあり、両者のオーバーラップは明らかだということである。