2021年10月6日水曜日

解離における他者性 5

 

少し長いが問題のフロイトの記述を引用しよう(フロイト全集、第2巻、岩波書店p.289) でもわかりにくい内容だが。

類催眠ヒステリーの最上のものとして私が挙げるのは、ブロイアーの最初の症例である。ブロイアーは、このような類催眠ヒステリーについて、転換防衛とは本質的に異なった心的機制があると述べた。つまりそこでは、表象がある特殊な心的状態において受容され、最初から自我の外部にとどまることによって、病的 pathogenic なものとなるに違いないというのだ。したがって、その表象を自我から遠ざけておくのに心的力は必要とされず、また、その表象を夢遊状態の精神活動の助けを借りて自我内部へと導き入れるときにも、抵抗が呼び起こされることはあり得ない。実際またアンナ・0の病歴も、そのような抵抗を全く示していないのである。私はこの違いを非常に本質的なものと見なす故に、その違いから、類催眠ヒステリーを一つの項目として立てる という決断を下したい 。奇妙なことではあるが、私は自身の経験において真性の類催眠ヒステリーに遭遇したことがない。私が着手したものは、防衛ヒステリーヘと変化したのである。だがそれは、〔本来の意識状態と〕明らかに切り離された意識状態において成立し、故に自我への受容から閉め出されたに違いない症状と一度も関わりを持たなかった、ということではない。私の扱った症例においても、ときにそうしたことは起きた。しかし、私はその場合にも、いわゆる類催眠状態が切り離されるのは、以前から防衛により分離していた心的〔表象〕集合体が、その状態 で効力を発揮していたという事情があるからだ、と証明できたのであった。手短に言えば、私には、類催眠ヒステ リーと防衛ヒステリーはどこか根っこの所で重なり合っているのではないか、そして、その際には防衛の方が一次的なのではないか、という疑念を抑え込めないのである 。しかし、これについては何もわからない。

 

この部分で特に赤字にした部分が分かりにくいので、私が「現代語訳」を作った。

 その場合は、心がある特殊な状態にあり、そこで受け取られた情報は自分の外側にとどまったままだ。当然自分の外側にあるものだから、自分の中の遠くに遠ざけておこうという力は必要がないし、自分の中に入れる時に抵抗は生じない。ブロイアーの治療したアンナOの場合にも、スッ、スッと状態が移行して、そこに力など働いていなかったのだ。私はその様な状態で起きるヒステリーは、抵抗がそこに存在しないという意味で特殊な例だと考え、類催眠ヒステリーというカテゴリーを設けることに同意したのだ。ところが実に不思議なことに、私自身はその様な本物の類催眠ヒステリーに出会ったことがないのだ。私が手掛けたケースは(私が精査したという事もあり)防衛ヒステリーであったことが判明したというわけだ。だからと言って意識の解離状態の間に生じた結果として自我から排除された状態になっていると証明できる症状に出会ったことがない、というわけではない。でもその後に証明できたのは、いわゆる類催眠状態は、それ以前に防衛により切り離されていた部分がその時になってポンと別れた、という事だったのだ