2021年4月4日日曜日

エッセイの書き直し 推敲 2

 ということでハーマンのTrauma and Recovery(原著)を二十年ぶりに紐解く。改めて読み直すと感慨深い。そこにこんな記載がある。
 「SDBPDDIDMPD)の三つは、今となっては古臭いヒステリーという名前のもとにまとめられていたのだ。」「患者は通常は女性であるが(…)その信憑性が疑われ、操作的であったり、詐病を疑われた。」。「これらの診断は差別的な意味を伴い、特にBPDがそうであった。」(以上、Herman, 1992,p.123)「彼女たちは「強烈で不安定な関係性intense, unstable relationships を示す」(p.124)。「BPDでは、一人でいるのが辛いが、他者を疎むこともある。」(p.124)あるいはこうも主張する。「これらの三つの共通分母は幼少時のトラウマである。」(p.125)「BPDではMPDのように断片化された交代人格を持つことができないが、MPDと同様にそれらを統合するということに困難さを有する。」(p.125)。「SDBPDDIDはおそらくCPTSDの変異型variant として最もよく理解されるだろう。」(p.126)「PTSDの症状の中でも生理神経症と呼ぶべき症状がSDであり、意識の歪曲が最も顕著なのがDIDであり、アイデンティティと他者との関係性の障害が最も顕著なのがBPDである」(p.126)そしてハーマンはBPD81%が虐待を受けているというデータを示している(p.126)。
 以上原著での出現順に並べたが、ハーマンの意図は十分伝わってくるだろう。幼少時の特に性的虐待により生じるCPTSDの中にBPDの要素が占める部分は非常に大きいという事が分かる。
 ハーマンはこの「心的外傷と回復」という本では本格的にCPTSDのことを論じているわけではない。しかし同時期にCPTSDというテーマに特化した論文を発表している。それがComplex PTSD: A Syndrome in Survivors of Prolonged and Repeated TraumaJournal of Traumatic Stress, Vol. 5, No. 3, 1992 pp.377191)である。そこではこのCPTSDDESNOS(ほかに分類されない極度のストレス障害)という名前でDSM-IVに掲載されることが検討されているという。結局DSM-IVにはDESNOSCPTSDも掲載されなかったのだが、まずはこの論文の記載についても少し見てみよう。
 まずCPTSDは症状が多様に出現するとして、それを身体症状、解離症状、情動的な変化と説明し、それから性格の変化Characterological Sequelae of Prolonged Victimizationの記述へと進む。ちなみにこの記述からハーマン主としてprolonged captivity において生じる症状について論述しており、小児の虐待状況という言い方に限定していないのがこの論文の特徴である。このCPTSDにおける性格の変化という事でいくつかの項目が出てくるが、そこでは「他者との関係の病的な変化」として再び「強烈で不安定な関係性」が論じられ、もっともそれを典型的に表すのがBPDであるという記述がみられる。そこには孤独への耐え難さと他者の耐え難さが共存するという。そしてハーマンは、同じようなことはMPDについても言える、と主張する。ここの記述はやはり「心的外傷と回復」と変わらないことになる。
 次に出てくるのが「アイデンティティの変化」。ここにもBPDMPDが出てくる。後者ではいくつかの部分が人格を形成するが、前者ではその能力がないために、スプリッティングの形をとるのだ、という言い方だ。ここら辺でもBPDMPDの論法が目立つ。そして最後の項目が、自傷がその後も続くという記述である。そしてこのような診断が大切なのは、これをパーソナリティ障害と見誤ることを防ぐことが出来ることだ、と書いてある。つまりBPDという診断がすでに見下したような診断であり、彼女たちはそのように診断されるべきではない、と言いつつもCPTSDの症状はBPDに頻繁にみられると言っている。果たしてBPDCPTSDと違う、と言っているのか、後者が前者を含む、と言っているのか簡単には判断できない。ただしCPTSDBPDがとても近い関係にある、ということはニュアンスとして伝わってくるのだ。