2020年6月12日金曜日

ミラーニューロンの詭計 3


愛着の議論は母子の関わり合いをいわば実験的に再現するという手法で研究することで、精神分析に見られたような思弁的、抽象的な議論に代わって非常に大きな発展を見せることになった。Bowlby Ainthworth らが示したいくつかの愛着パターンもそれぞれの実証性を有したものとみなされた。そしてA:回避型、B:安定型、C:アンビバレント型という分類にさらにD無秩序無方向型とも呼ばれる。後にこの 3 つ以外に D=無秩序・無方向型disorganized attachment, DAというパターンが見出されるが、それが解離の病理との関連でしばしば論じられる。

Giovanni Liotti, G.(2004) Trauma, Dissociation, and Disorganized Attachment: Three Strands of a Single Braid. Psychotherapy Theory Research & Practice 41(4):472-486. 

Howell 先生のこのテーマに関する議論を読んでいると、解離性の人格状態の先生のプロセスが非常によく描かれているという印象を持つ。Liotti (H.100)などは自分と保護者の両者の知覚入力が圧倒的である場合に、その統合機能を凌駕することで別の心的状態に陥ること、そしてその基質substrateとなる部分はすでにそこに用意されているともいう。Liotti はそもそも愛着上の問題により異なる不連続的な「内的作業モデル」(IWM, これもわかりにくい概念だ)が存在することでDIDが生じる、とさえ言う。そしてこれはトラウマの既往のあるなしよりも、将来のDIDを予測するという。それが書かれているのが、次の論文だ。
Liotti, G (2006) a model of dissociation based on attachment theory and research. J of Trauma and Dissociation, 7,55-74.
そこでこの論文について調べてみる。例によって全文を購入するのは高額だから、ネットで見られるabstract だけだ。Abstract(省略)
この論文は何を主張しているかと言えば、解離の基盤はすでに愛着のレベルで出来上がっているというのだ。彼に言わせるとdisorganized type はすでに解離なのだ、と言う。そしてそれが親の、frightened, frightening behavior により生じているということは、明らかに母子関係に問題があるということになる。ただし親のそのような態度が子供の解体された愛着を生むという保証はないのであろう。そしてそれが後の人格の一見いきなりの出現の基盤になっているということだ。Howell もそのことを称して、人格がそこでスプリットオフするのではなく、基盤はでき上っている、という言い方をしている(p.87)。もう少しわかりやすくまとめる。母親(父親でもいいが)が時々急に怒ったり、優しくなったり、という離散的な振る舞いをすると、子供の側の振る舞いも離散的になる。つまりまとまりを欠いた、不連続的な振る舞いを見せる。そこにトラウマが生じることで、より解離としての性質を有していく。