2025年11月27日木曜日

男性の性加害性 1

まだ引き摺っている原稿である。

 改めて‥‥「どうしようもない存在としての男性」とその性加害性

 今回の対談と同時並行的に様々な文献に当たりつつ思ったのは、男性の性の問題は複雑多岐でかなり込み入った問題であり、その多くは解明されず、また語られることは少ないということである。その中でも特に問題なのが、一見普通の男性が時に見せる性加害性である。
 性加害者は多くの場合、一見健康で普通の社会生活を送っており、特に犯罪などを表立って犯すことのない男性達がかかわっている。昨年、一昨年に世間を大きく騒がせた元アイドルのN氏やY氏やM氏が、普通の人の仮面をかぶった犯罪者であると考える方々にとっては、私のこの主張はあまり意味をなさないかもしれない。しかし私は彼らは少なくとも普通、時には善良な人々として社会で通用していたということを前提として論じる。
 そこで彼らの起こす問題をとりあえず、「普通の男性の性加害性」として捉えることが出来よう。これは当然ながら病気としては扱われないという事情がある。御存じの通り、この問題は社会に大きな影響を及ぼし、数多くの犠牲者を生み出している問題であるが、これまで十分に光が当てられてこなかったのである。つまり「普通の男性の性加害性」は私たちの社会において一種の盲点になっていたのだろう。
 臨床で出会う性被害の犠牲者たちがしばしば口にするのは、それまで信頼に足る存在とみなし、また社会からもそのように扱われていた男性からの被害にあってしまったという体験である。そしてそれだけにそれによる心の傷も大きい。信頼していた人からの裏切りの行為は、見ず知らずの他人による加害行為にも増して心に深刻なダメージを及ぼすというのは、トラウマに関する臨床を行う私たちがしばしば経験することである。
 しかしこの問題は自分たちのことを「一見普通である」と自ら思い込んでいる男性の恐らく大部分にとっても決して他人事ではないはずだ。どんなに社会的な地位があり、日頃から品行方正とみなされていても当事者である可能性を免れることはないかもしれない。昨今のニュース報道を見ればわかる通り、女子生徒の盗撮などの行為を行っている人たちは学校の当の教師たちなのである。それも日頃は信頼され、父兄からも安心して子供を任せられると思い込んでいた人たちの行為なのである。そこにこの問題の複雑さ、闇の深さが存在するのだ。私が男性のその様な性質を「どうしようもない存在」と呼ぶとき、これはある意味では男性という性を負った私たちが多かれ少なかれ運命づけられ、そのこと自分のこととして考え、反省しなくてはならないという自戒の念を込めているのである。