2024年9月28日土曜日

統合論と「解離能」20 

 ところでさっそくキンドルで取り寄せた Ross CA.(2018)Treatment of Dissociative ldentity Disorder :Techniques and Strategies for Stabilization. Manitou Communications. の該当箇所を読んでみたが、なんともトーンダウンしていることが分かる。 そのまま訳そう。 「治療のゴールは安定した統合 stable integration である。少なくとも私の立場はそうだ。しかしそれは患者にとってのゴールではないかも知れない。ある人は全てのパーツが共意識状態になり一緒に作業をする段階に留まることを望む。それは彼らの選択であり、その人にとって正しい選択かもしれないし、それはそれでいいのだ。」(662/1438) そして Ross はそれでも統合の方がベターである理由を以下のようにあげる。 「1.ほんの少しの精神障害を持つことよりは、まったくもたない方がいいのではないか? 2.内部のグループ全体をマネージするよりも、一人の人間である方が時間もエネルギーも少なくて済むだろう。 3.「すべての人が調和している」状態がどれだけ続くかは誰にもわからない。 4.あなたが[パーツ同士が]協力している段階で留まるとしたら、人生で深刻なトラウマが将来生じた時に、あなたは完全に統合している状態よりも、葛藤あるDIDの状態に戻ってしまう可能性がより高いだろう。」 そして続ける。「完全に統合したDIDと部分的に統合したDIDを比較した長期的な予後の研究は存在しない。」(662/1438)。これは気弱な発言だ。そしてこの章の最後にこんなことも言っている。 「これは言っておかなくてはならない。統合はずっとずっと先のことだ。このことを現在の時点でこれ以上話す必要はない。このセッションの残りの時間は他の問題に焦点を当てよう。」「統合についてこの種の話をすることにより、パーツの抵抗も和らぎ、治療作業もスピードアップするだろう」(715/1438)。 これははっきり言って以前唱えていた「統合論」の歯切れの悪い撤回と言えるのではないだろうか。

ところでRossはこの本の中で面白い表現を用いている。ある人格が、他の人格は消えて欲しい、と言った時に、それは integration by firing squad つまり 銃殺刑執行部隊による統合、つまり他の人格たちを皆殺しにして大型のごみ容器に投げ込むようなものだという。(それにしてもどうしてこんなに過激な表現をRossは用いるのだろうか。)