2023年11月4日土曜日

脳科学と小児臨床 7

 このように愛着を捉えると、それが障害された状態、ショアの言う「愛着トラウマ」に際して起きていることをより具体的に考えることが出来る。愛着不全の状態では、まず自律神経についてどのようなことが起きているかを知らなくてはならない。乳児が泣き叫んでいる状態は、交感神経系が興奮した状態と言える。そしてそれが母親により調節されないことで、心臓の鼓動や血圧の上昇や発汗がさらに増し、乳児はそれを自ら生理学的に調節する必要が生じてくる。それが背側迷走神経の作動である。ところがこの状態はむしろ行き過ぎの事態を招く。つまり脈拍や血圧が低下し過ぎて、freezing、擬死の状態になる。これが解離である。
 ちなみにこの背側迷走神経という用語は、最近のスティーブン・ポージスのポリベイガル理論により提示された概念ある。(ポージスの理論では副交感神経系には二種類があり、腹側迷走神経は、通常の適応につながるが、ストレス下では背側迷走神経という、いわばアラーム信号に匹敵するシステムが働き、低覚醒状態、痛み刺激への無反応性を生む。いわば解離が生じるためのメカニズムが発動するのである。)
 愛着の機会が損なわれると、自分の情動を健康的に調整することが出来ず、むしろ情動に圧倒されて、解離を起こす。つまり情動を切り離し、意識に上ることを防ぐことになるのだ。この意味では解離はコントロール不可能な交感神経の興奮を避けるために用いられる機序という事になるが、解離そのものが背側迷走神経により支配された状態と見なすことも出来る。ちなみにこの状態がタイプ D の愛着(メアリー・メイン)において生じていると考えられる