トラウマ関連障害とPDとの関係性を考える上で格好の材料を提供しているのが、ICD-11に新たに加わった複雑性PTSD(CPTSD)である。これはPTSD症状と「自己組織化の障害 (Disorder of Self Organization, DSO)」 の複合体として定義づけられているが、後者の「自己組織化の障害」はそれ自身が繰り返されるトラウマの影響として備わったパーソナリティ傾向ということになる。 以下は飛鳥井の訳を借りよう。
飛鳥井望 (2020) 3章 ストレス関連症群「複雑性心的外傷後ストレス症」(pp.255-260)講座精神疾患の臨床.不安又は恐怖関連症群強迫症、ストレス関連症群 パーソナリティ症.p.258)2020.中山書店.
自己組織化の障害
感情制御困難(AD):感情反応性の亢進(傷つきやすさなど)、暴力的爆発、無謀なまたは自己破壊的行動、ストレス下での遷延性解離状態、感情麻痺および喜び又は陽性感情の欠如。
否定的自己概念(NSC):自己の卑小感 敗北感、無価値観などの持続的な思い込みで、外傷的出来事に関連する深く広がった恥や自責の感情を伴う。
対人関係障害(DR):他者に親密感を持つことの困難、対人関係や社会参加の回避や関心の乏しさ。
この記載を見る限り、これらが自ずと一つのパーソナリティ傾向を形成していると見ることが出来る。実際幼少時にトラウマを負った多くの患者と臨床場面において出会う際に、彼(女)達に一定の性格傾向を感じ取ることが出来るが、それは概ねこの自己組織化の障害の概念により言い表されていると感じる。それは自分の存在を肯定されていないこという考えに由来する自信のなさや周囲に迷惑をかけているという罪悪感や後ろめたさ、そして対人関係に入ることへの躊躇である。
この「自己組織化の障害」が表すようなPDは、ICD-11におけるディメンショナルモデルにおいて表現されうるであろうか。おそらくそれはなどの顕著なパーソナリティ特性および、ボーダーライン等により特徴づけられるのであろう。ではDSMにおけるカテゴリカルなPDは存在しただろうか。離隔や非社交性、否定的感情などを考えれば、回避性PD、スキゾタイパルPD等が浮かぶが、欧米の精神医学の文献では、それとBPDとの異同が盛んに取りざたされている。
思えばJ.Herman が1990年にCPTSDの概念を提出した際には、BPDの代替案という意味合いが色濃くあったことを思い出せば、この事情には納得がいく。(Ford, Couerois,P1)本来BPDはトラウマに由来するものではないかという仮説は数多くの識者により提出されたのである。実際に情緒的な虐待とネグレクトは、その他のPDを有する人に比べて3倍多く、健常人に比べて13倍多いとされる(Porter, Palmier-Claus,et al, 2021)。その後、繰り返されるトラウマがパーソナリティに与える影響に関しては、DESNOSなども提案されたが、DSM-IVやDSM-5に採用されることはなかった。ただしDSM-5では、PTSDの概念が拡張され、そこにBPDにおいてみられるような診断基準(アイデンティティの障害、対人関係上の不信感、情動の不安定さ、衝動性、自傷行為など)が追加された。そしてICD-11では最終的にCPTSDが掲載されるに至った。このようにPTSDとBPDの合併症とCPTSDは区別されるべきかという議論は学会でかなり論じられてきた(Cloitre, p1.)(cloitre, p1.)このような経緯からも、自己組織化の障害はCPTSDとBPDに共通しているというのが概ねの見解であるようである。
しかしCPTSDのパーソナリティ傾向とBPDのそれはやはり異なる。Cloitre は、ある研究で、DSOはCPTSDとBPDに見られるとしているが、その上でBPDの場合にはそれ以外にも、以下の4つが特徴的であった。すなわち見捨てられまいとする尋常ならざる努力、理想化と脱価値化の間を揺れ動く不安定で激しい対人関係、著しくかつ持続する不安定な自己イメージや感覚、衝動性、である。これらはCPTSDでは低いことから、それ等の存否で両者は区別できるとした。これは一定の尊重すべき見解であろう。またBPDの方がはるかに自殺や自傷行為は高いと報告した。(飛鳥井p。259)
Ford JD, Courtois CA. Complex PTSD and borderline personality disorder. Borderline Personal Disord Emot Dysregul. 2021 May 6;8(1):16. doi: 10.1186/s40479-021-00155-9. PMID: 33958001; PMCID: PMC8103648.
Cloitre M, Garvert DW, Weiss B, Carlson EB, Bryant RA. Distinguishing PTSD, Complex PTSD, and Borderline Personality Disorder: A latent class analysis. Eur J Psychotraumatol. 2014 Sep 15;5. doi: 10.3402/ejpt.v5.25097. PMID: 25279111; PMCID: PMC4165723.
Porter C, Palmier-Claus J, Branitsky A, Mansell W, Warwick H, Varese F. Childhood adversity and borderline personality disorder: a meta-analysis. Acta Psychiatr Scand. 2020 Jan;141(1):6-20. doi: 10.1111/acps.13118.
飛鳥井望 (2020) 3章 ストレス関連症群「複雑性心的外傷後ストレス症」(pp.255-260)講座精神疾患の臨床.不安又は恐怖関連症群強迫症、ストレス関連症群 パーソナリティ症.p.258)2020.中山書店.
自己組織化の障害
感情制御困難(AD):感情反応性の亢進(傷つきやすさなど)、暴力的爆発、無謀なまたは自己破壊的行動、ストレス下での遷延性解離状態、感情麻痺および喜び又は陽性感情の欠如。
否定的自己概念(NSC):自己の卑小感 敗北感、無価値観などの持続的な思い込みで、外傷的出来事に関連する深く広がった恥や自責の感情を伴う。
対人関係障害(DR):他者に親密感を持つことの困難、対人関係や社会参加の回避や関心の乏しさ。
この記載を見る限り、これらが自ずと一つのパーソナリティ傾向を形成していると見ることが出来る。実際幼少時にトラウマを負った多くの患者と臨床場面において出会う際に、彼(女)達に一定の性格傾向を感じ取ることが出来るが、それは概ねこの自己組織化の障害の概念により言い表されていると感じる。それは自分の存在を肯定されていないこという考えに由来する自信のなさや周囲に迷惑をかけているという罪悪感や後ろめたさ、そして対人関係に入ることへの躊躇である。
この「自己組織化の障害」が表すようなPDは、ICD-11におけるディメンショナルモデルにおいて表現されうるであろうか。おそらくそれはなどの顕著なパーソナリティ特性および、ボーダーライン等により特徴づけられるのであろう。ではDSMにおけるカテゴリカルなPDは存在しただろうか。離隔や非社交性、否定的感情などを考えれば、回避性PD、スキゾタイパルPD等が浮かぶが、欧米の精神医学の文献では、それとBPDとの異同が盛んに取りざたされている。
思えばJ.Herman が1990年にCPTSDの概念を提出した際には、BPDの代替案という意味合いが色濃くあったことを思い出せば、この事情には納得がいく。(Ford, Couerois,P1)本来BPDはトラウマに由来するものではないかという仮説は数多くの識者により提出されたのである。実際に情緒的な虐待とネグレクトは、その他のPDを有する人に比べて3倍多く、健常人に比べて13倍多いとされる(Porter, Palmier-Claus,et al, 2021)。その後、繰り返されるトラウマがパーソナリティに与える影響に関しては、DESNOSなども提案されたが、DSM-IVやDSM-5に採用されることはなかった。ただしDSM-5では、PTSDの概念が拡張され、そこにBPDにおいてみられるような診断基準(アイデンティティの障害、対人関係上の不信感、情動の不安定さ、衝動性、自傷行為など)が追加された。そしてICD-11では最終的にCPTSDが掲載されるに至った。このようにPTSDとBPDの合併症とCPTSDは区別されるべきかという議論は学会でかなり論じられてきた(Cloitre, p1.)(cloitre, p1.)このような経緯からも、自己組織化の障害はCPTSDとBPDに共通しているというのが概ねの見解であるようである。
しかしCPTSDのパーソナリティ傾向とBPDのそれはやはり異なる。Cloitre は、ある研究で、DSOはCPTSDとBPDに見られるとしているが、その上でBPDの場合にはそれ以外にも、以下の4つが特徴的であった。すなわち見捨てられまいとする尋常ならざる努力、理想化と脱価値化の間を揺れ動く不安定で激しい対人関係、著しくかつ持続する不安定な自己イメージや感覚、衝動性、である。これらはCPTSDでは低いことから、それ等の存否で両者は区別できるとした。これは一定の尊重すべき見解であろう。またBPDの方がはるかに自殺や自傷行為は高いと報告した。(飛鳥井p。259)
Ford JD, Courtois CA. Complex PTSD and borderline personality disorder. Borderline Personal Disord Emot Dysregul. 2021 May 6;8(1):16. doi: 10.1186/s40479-021-00155-9. PMID: 33958001; PMCID: PMC8103648.
Cloitre M, Garvert DW, Weiss B, Carlson EB, Bryant RA. Distinguishing PTSD, Complex PTSD, and Borderline Personality Disorder: A latent class analysis. Eur J Psychotraumatol. 2014 Sep 15;5. doi: 10.3402/ejpt.v5.25097. PMID: 25279111; PMCID: PMC4165723.
Porter C, Palmier-Claus J, Branitsky A, Mansell W, Warwick H, Varese F. Childhood adversity and borderline personality disorder: a meta-analysis. Acta Psychiatr Scand. 2020 Jan;141(1):6-20. doi: 10.1111/acps.13118.