2022年12月18日日曜日

報酬系 1

   報酬系と脳科学

 目の前の患者Bさんがこう言う。「あの人と連れ添ってきて幸せだったと思ったことは一度もありません。ずっと別れたいと思っていました。人はあの人のことを素晴らしい人だ、作家であり政治家であり、一種の天才なんだというでしょう。でも夫としての私に何も優しい言葉をかけてはくれませんでした…」
セラピストの貴方は静かに思うのだ。「奥さん、貴方の旦那さんが破天荒だったのはわかります。身勝手なところもあったでしょう。でも彼が味わわせてくれた体験は、おそらく他の人には決して持てなかったものでしょうね。」そして思うのである。夫婦生活での一番の問題は、相手がいつも身近にいることで、相手が与え続けてくれたことに対しては見えなくなり、相手が奪い続けているものだけが見えることなのだろう。人はどうして今持っているものの有り難さを認識できないのだろうか?」そして「自分自身についても全く言えることだ。」とつぶやく。
 単純な例をあげよう。私達は両目の視力が1.0であることを普通は感謝したり喜んだりしない。駅まで自分の足で普通に歩いていき、地下鉄に乗り、仕事場に着くということがどれほど幸せな事かについて歓喜したりしない。でも視力を突然失って途方に暮れている人、変形性膝関節症に悩まされて杖なしには歩けなくなった初老期の方には、普通の生活を送れている人たちがどれほど羨ましく感じる事だろうか?

 何が問題か? 私は報酬系にその責任がある、と言いたい。