2022年1月2日日曜日

偽りの記憶の問題 23

  次に本書で挙げていうのが、「Michelle Remenbersミッシェルの記憶」(スミス、パズダー)という本で、これは米国で一躍ベストセラーになったという。この本では精神科医パズダ―がスミスという女性と会っていて、彼女が「何か大切なことを打ち明けなくてはならない気がするが思い出せない」というので600時間以上の催眠療法により聞き出した話をまとめたものである。それが米国で一時非常に話題になった悪魔的儀式虐待のストーリーだった。このMichelle Remembers は日本語訳されているかはわからないが、矢幡洋先生の『危ない精神分析』〈亜紀書房〉でも言及されている可能性がある。この後米国では悪魔崇拝の被害者と主張する人々が急増し、一次は大騒ぎとなったが、すべてが偽りだったという事になっているそうだ。この「ミッシエルの記憶」についてもいくつかの現実とはそぐわない点が指摘されたという。ここで熱弁を振るったのがロフタス女史であるというわけだ。

さてこの後に出で来る部分は本書の中で一番理解しがたい内容だった。それはそもそも過誤記憶の問題の責任の一端はフロイトによるという記述である。ただそこで批判されているのは、フロイト自身が1897年以降打ち消した考え方である。ショウの本も「フロイト先生のウソ」(ゲーデン)も、フロイトに対する誤った考えが繰り返し書かれている。それはフロイトは過去のトラウマが抑圧され、それがのちの神経症を生むという考え方であるが、これはいわゆる性的誘惑説であり、フロイト自身はそれを撤回したことで精神分析理論が始まっているのは、分析を知る人間にとっては常識なのである。

ただし一応フロイトシンパである私はここの部分を多少なりとも憤慨しながら読んでいたのだが、これらの記述が一生懸命問いただそうとしている部分は、確かに大きな問題であることに気が付いた。というのもこれらの文章が問いただしている「抑圧」ということは確かに大きな問題を含んでいるからだ。