2021年9月5日日曜日

解離における他者性 4

 私はまたDIDを持った方女性のご主人にもたくさん出会った。もちろん少ないながら男性のDIDの患者さんもいらして、そのような方をご主人として持つ奥様の姿も多く見てきた。そして一つ思うのは、おそらく別人格が別人であるということを本当に理解しているのは彼ら、彼女らではないかということである。彼らは配偶者や親が人格の交代を起こすのを日常的に体験することになる。そして彼らは別人格を主人格にとっての別人、他者であることを認めることでしか、対処することが出来ないという事情が分かっているのである。ただし患者さんのご両親の場合は例外である。子供の解離症状を薄々感じてはいてもはっきり自覚しない、ないしは認めないというご両親は多い。もちろん生育環境はそこで解離が潜伏し、進行してきた状態であることを考えると、それは十分理解可能である。

DIDの母親を持った子供は小さいころは、お母さんが二人いると思っていたという話を聞く。子供にとって母親を識別することは極めて重要になる。ユウチューブで見たあるシーンで、母親の一卵性双生児の妹が訪ねてきたとき、初対面の赤ちゃんは、最初は母親と思って抱き着こうとした相手が別人と気が付き、恐怖におののいて泣き出す姿を見たことがある。いわゆる「不気味の谷」を赤ちゃんがもろに体験したことになるが、自分にとっての母親は一人であり、別人格状態にある母親は、母親と異なる他者だということを、幼児の段階で理解するという臨床的な事実はとても重要な意味を持つと言っていい。そして子供は母親のいくつかの人格を別人として認識するという臨床的な事実は、交代人格が他者であるという私の主張を支持してくれるのではないかと思う。
 またこの例はこれはこの文脈で出すのは誤解を招きかねないかも知れないが、ある患者さんの話では、別人格になって帰宅すると、ペットのワンちゃんが、いつものように近づいてこなかったという話も聞く。昔我が家で飼っていた犬のチビは、妻が呼ぶとしっぽを振ってすぐ来るのに、私が呼ぶと見事に無視していました。犬もまた他者を識別する力を、交代人格に対しても発揮していたのである。