2021年4月18日日曜日

母子関係の2タイプ 5

日本におけるStrange situation paradigm
 
以下はこのブログでも2019年9月に書いたことがある内容だ。そこに肉付けしていくわけだが、まずはその再録から。

 日本人の母子は結局一緒にいることでどのような違いが生まれるのだろうか。その参考となるのがストレンジ・シチュエーション・プロシージャ―(SSP)である。メアリー・エインスワースが考案して一大センセーションを引き起こしたこの実験(と呼んでおこう)では、ある部屋に母親が子供と一緒に入り、次に見知らぬ他人が入って来て、母親は子供をおいて出て行く。そしてそれに対する幼児の反応を観察し、次に母親が戻ってきた時のそれに対する子供の反応を観察する、という一連の実験である。エインスワースは子供の反応について、それをA型「不安定(回避)型」(戻ってきた母親に無関心。母親が出て行っても戻ってきてもあまり関心を示さない。)、B型「安定型」(母親に抗議するが、すぐ落ち着く。)、C型「アンビバレント(両価)型」(お母さんが部屋に戻ってきたときに抵抗を示す。身体接触は求めるが同時に抵抗も示す。たとえば抱き上げようとすると泣き、おろそうとすると怒ってしがみつく。お母さんが部屋から戻って来るとお母さんを求めて泣きだすが、お母さんのもとへ近寄ろうとしない。お母さんが近付くと、抵抗を示す。)その後、メインとソロモンが上記3つに当てはまらない愛着のタイプを発見し、D型「無秩序型(無方向型)」を追加した。
(このA,B,Cの並べ方は、正常と思われる「安定型」をBに据えたことが少しわかりにくい)。ともかくもエインスワース自身の研究による各タイプの比率構成は、A タイプが 21%、B タイプが 67%、C タ イプが 12%というものであった。ちなみにこの比率は、その後、世界 8 カ国で行われた 39 の研究、約 2000 人の乳児のデータを総括して得られた、各タイプの比率とほとんど変わらないものである(van IJzendoorn & Kroonenberg,1988)。
 さて問題になったのは、社会文化による違いが存在しないという訳ではなく、例えば、ドイツでは Aタイプの比率が、またイスラエルのキブツや日本ではCタイプの比率が相対的に高いということが知られているのだ。この日本での研究についてであるが、1980年代に行った三宅、高橋先生は、日本のサンプルでは、A型がゼロで、C型が30パーセントであると報告した。彼らが言うには、日本の母子はいつも一緒にいるので、SSPという設定自体にさらされた子供自体が驚いてしまい、むしろそれが正常に近い反応であろうという。すなわち日本でC型が多いからと言って、不安定な愛着が起きているとは言えない、と説いた。この背景に、社会文化間に存在する子どもやその養育に対する基本的考え方(Harwood et al.,1995)および実際の家族形態や養育システム(van IJzendoorn & Sagi,1999)の差異などが関与している可能性は否定できないという。ところで私にはこのC型は子供がパニックになり、母親に対してすごくアンビバレントになっている状態と考える。だから結局三宅先生の考えに賛成なのである。ちなみに面白いのは日本ではAがゼロ、という点だ。(私にはAは母親においておかれる体験にすごくなれた子供であると同時に、アスペルガーの子にも見える。という事はどの社会にも一定数存在するはずなのに、日本だけゼロって本当だろうかと思ってしまう。)一つの可能性は、見知らぬ人と一緒の部屋から母親が出ていくという事態そのものが、日本では考えられないので、それに無関心の子供はゼロであった、という事だろうか。 

以下は今回の書き直しのために調べた部分である。
Ujiie, T(1986): Is the Strange Situation Too Strange For Japanese Infants? 乳幼児発達臨床センター年報, 8, 23-29. という論文を参考にしよう。
 やはり三宅先生は、「日本の母子は常に近い身体接触を持つので、この実験状況自体があまりにも奇妙でストレスフルであるという反論が書いてある。だから日本におけるCの多さは不安定な愛着を示してはいないのだ、と。Owing to the facts that Japanese mother and infant relationship is typically characterized by constantly close physical contact and by the infrequency of separation from the mother, and that the Japanese infants tend to have a temperamental disposition towards fearfulness and irritability, it can be expected that the Strange Situation will be too strange and too stressful for Japanese infants. Thus they did not consider the C type of response of the Japanese infants as a direct reflection of a greater tendency to be insecurely attached. (下線部は岡野の強調)。
「そーだ、そーだ!」と思わず言いたくなってしまうではないか。