2023年12月13日水曜日

ウィニコットとトラウマ 1

ウィニコットフォーラム(2023年11月23日)の特別講演として「解離とトラウマに関してウィニコットが提起したこと」というテーマでお話をする。
 今回のフォーラムのテーマは「外傷について」である。そしてウィニコットがトラウマについてどの様なことを言っているかを論じて欲しいというのが、企画者の加茂先生からのリクエストであった。もちろんこれについては論じるべきことが沢山ある。何しろウィニコットはれっきとしたトラウマ論者だったからだ。
まずこの見取り図を見ていただきたい。精神分析では葛藤モデルと欠損モデルを分ける。そして後者に属する論者は少なくない。フェレンチもトラウマについて強調している。バリントは基底欠損のことをトラウマと言い換えている。そしてウィニコットの弟子のカーンがこれを累積外傷と呼んでいる。彼は当然こちらの陣営に属するのだ。この二つのモデルは一応精神分析の中ではうまくすみ分けている。エディプス期以降の問題はフロイトの理論で、それ以前は対象関係理論で、というすみわけでる。これでとりあえずは上手く行っているようであるが、実は両者は対立的であって、共存し得ないというのは、関係論を創始したミッチェルの基本的な考え方である。そして以上のようなすみわけは、発達的偏重 developmental tilt という問題を生むというのが彼の基本的な考え方である。ここでいう tilt とは二つのうちどちらかが得意、優勢という意味で用いられる。数学と国語で前者が得意なら、mathematic tilt という事になる。だから偏重という訳語が一番いいであろう。