2020年7月3日金曜日

解離と他者性 書き直し 5


交代人格の生成に関する取入れの機制について
交代人格、特に黒幕人格が形成される際に用いられる概念が、同一化identification や取り入れintrojection である。これらの概念は精神分析に由来する。ただしこれらにも二種類のもの、大文字のそれと小文字のそれとの区別が必要となる。つまりintrojection (取入れ)とIntrojection(大文字の取入れ)、identification (同一化) とIdentification (大文字の同一化)である。
前者のintrojection, identification は力動的なそれである。そしてこちらにはかなり意図的な模倣も含まれる。言葉を思春期以降に「語学」として習得する場合もこれに属する。それは既存のネットワークの改変修正により成立する。ところが後者はまさに現実の、実体的、具体的なコピーという形を取る。
この後者のプロセスが大いに関係するのが、早期の発達段階である。赤ん坊は生まれ落ちたときにはすでに自発呼吸し、手足を動かし、泣き声を上げる。つまり大文字系のプログラムはすでに成立して、動き出しているのだ。そこにはフィードバックループが働いていて、瞬くうちにそのプログラムを精緻化していく。前運動野と運動野、感覚野との関係は極めて緊密で、そこには意図とその結果のフィードバックループが小脳の力を借りて猛烈な勢いで働いて行動を形成していく。そこでは模倣はデフォルトの機能として備わり、目で見た行動を自分で起こし、耳から聞いた音を自分で作り、現実との差異を取り込んで修正していくというループがほとんど常に動いているということなのだろう。そしてそこに深く関係しているのが、ミラーニューロンシステム(MS)である。 
赤ん坊と母親のかかわりを模倣のプロセスとしてとらえることは極めて重要だ。それは相手に働きかけるということも含めて、である。つまり自分も母親に働きかけるということで、模倣し返すのである。要するに「相互模倣」が生じるわけだが、これは「オウム返し」とは異なることになる。母親が声をあげて、赤ちゃんがそれをまねるとき、母親はすぐにそれに気が付くだろう。それはすでに「やり取り」になっていることに注意しよう。いわば赤ん坊は一種の模倣装置なのだ。しかしそれを行うことが交流になっていること、つまり模倣が対人関係の形成を伴っているとしたら、これはなんと合理的なのであろうか。もちろん赤ん坊は周囲に起きていることを何でもコピーするというわけではない。むしろ自分に関わってきた人に対する模倣を選択的に意味し、それは生存の可能性を保証する。ローレンツの記載した鳥(鴈)の刷り込を考えればよいだろう。刷り込みには臨界期があり、鴈の子供はその時期に母親によって刷り込みが行われることが大事なのだ。