2020年2月13日木曜日

揺らぎの不足と発達障害 推敲 1


揺らぎの不足と発達障害

私が身を置く世界、つまり精神医学の世界では、「発達障害」という概念や診断名は、いまや大流行りである。過去にこれほど人々の注目を浴びた精神化の診断名はあっただろうか? 1970年代からは境界パーソナリティ障害(いわゆる「ボーダーライン」)などが非常に注目を集めた。その時代に新たにこの診断が下された患者さんもたくさんいたころだろう。それから時代は下り、いまや発達障害全盛となった。
 この診断に特徴的なのは、それに該当する人々が莫大な数に上るということである。発達障害、特にいわゆる自閉症スペクトラム障害は、高機能、高知能の人々により多く見られるとされる。そして自閉症が極端な男性型脳であるという、以下に述べるサイモン・バロン=コーエンの仮説にみられるように、男性一般に少なからずみられる傾向であるという考え方も示されている。そうであれば発達障害の傾向を有する可能性を有する人は、人類の少なくとも半分ということになり、症例数が多い、というどころの話ではなくなる。こうなると発達障害であることは必ずしもネガティブなニュアンスを伴ったスティグマとは言えず、いわば高知能であることを自分からそれとなく匂わす手段となることも少なくない。事実、最近は精神科医の中でも、「実は私は○○%発達障害が入っています」と「カミングアウト」する人は少なくない。つまり発達障害傾向であることは、一種の隠し味的な、当人の知的な能力をそれとなく醸すような意味を持ち始めているのだ。