2019年2月13日水曜日

解離の心理療法 推敲 10



別人格からのトラウマ情報

トラウマに関する情報は、初診の段階で別人格の協力を得ることで、侵入的になることなく、その存在の手がかりを得ることもあります。私たちがしばしば体験するのは、ある人格は、トラウマを受けた記憶を有していたり、そこにアクセスすることが可能であったりするということです。その場合はトラウマについて直接尋ねることは異なった、侵襲性の低いアプローチが可能となります。以下のようなやり取りをご覧ください。

(中略)


 同伴者からのトラウマ情報

患者さん本人からトラウマの情報を得る際には、以上に述べた諸点に注意を払う必要がありますが、家族や同伴者からのトラウマに関する情報も時には非常に有用になります。初診の段階では出来るだけ患者さん本人とは別に、家族や同伴者と話す機会を設け、患者さんの過去の社会生活歴やトラウマの存在について率直に情報を得る必要があります。その時に聞けない話は、あとでご家族から手紙のような形で送ってもらうという手段もあり得るでしょう。

被害を受けていたナナさん(10代、学生)

(中略)

この様に治療者はトラウマ体験と患者さんの心理的な問題がどのように関連し、どのような経過を経てきたのか、本人と話し合いながら病歴を整理します。解離症状のある人は時間の感覚に障害をもつことが多く、個々のエピソードを時系列に整理できないことが多いものです。また事実を事実としては記憶していても、そこに情緒的な実感が伴っていないこともあります。治療者は把握している事実の隙間に浮かび上がる空白の期間に注目し、そこで起きていたかもしれない外傷的事態をある程度推測しながら、患者さんの心理状況の軌跡を辿る必要があります。
ちなみにナナさんの場合は被害により新たな人格が形成されるには至っていませんでしたが、トラウマ記憶は他の記憶とは別に処理され、普段は思い出されないような形で保存されていたのであり、それは本来の意味で「忘れられ」ていた、というのではなく「解離されていた」という風に考えます。深刻なトラウマについての記憶のある部分はこの様な形で脳に定着しています。これを「トラウマ記憶」と呼ぶこともあります。この種の特殊な記憶が形成される事情について行かにもう少し詳しく見てみましょう。