2025年6月11日水曜日

遊び 推敲の推敲 3

 遊びのプロトタイプとしての「じゃれ合い(RTP)」について

さて遊びについては、現在心理学の分野でもとても注目を集めている。それがいわゆる「じゃれ合い」という現象である。これは私の純粋な興味からくるのだが、私は動物の子供たちがお互いにじゃれ合う姿にいつも感銘に近いものを覚える。(youtube によく出てくるのだ。)なぜ彼らはあれほど憑かれたようにじゃれ合いをするのか。そしてそれはいつも私が子供とやったじゃれ合いを思い起こさせる。子供との体験で一番楽しかったのが、このじゃれ合いだ。そしてそれがある種の学問的な対象になっているのを知って、とても興味を持った。

例えばラットに見られるじゃれ合いについて、人間とラットとの間でそれを演じることで様々な実験が行われているのだ。それはじゃれ合いは、その動物の個体にとって極めて重要なプロセスであること、そしてそれは将来の他者とのかかわりあいを有する上で、とくに攻撃性の発揮や性的な関わりのにつながる極めて重要なプロセスであるということを伝えている。

ここで遊びに関して一番エビデンスを与えてくれる動物実験を紹介しよう。ベルリンのフンボルト大学の研究チームは、ラットの脳内に「笑いと遊び心を制御する神経回路」を発見したと報告した。(「ナゾロジー」のサイトからhttps://nazology.kusuguru.co.jp/archives/130792#google_vignette )


ラットはとにかく遊び好きらしい。youtube でも人がラットと遊ぶ動画がたくさん出てくる。私たちはペットの犬や猫が遊び好きであることはよく知っているが、ラットも相当の遊び好きであり、実験者とキャーキャーと声をあげて騒ぐという。人間の子供が遊ぶときキャーキャーというが、ラットのそれには馴染みがないのも無理はなく、ラットの嬌声は高周波の超音波レベル(50~55KHz )で、人には聞き取れないからだ。
 さてラットが特に好むのが、いわゆる rough and tumble play であり「喧嘩ごっこ」と言う訳が一応当てはまるらしいが、私はこの文章では一貫してこれを「じゃれ合い」と表現することにする。それは偽りの攻撃と偽りの防御を交互に演じることになる。そしてもしラットの脳のPAGという部位を破壊すると、くすぐられても声をあげず、遊びに興味を失ってしまうというのである。そして研究者はラットの実験を通して、遊びが生物に共通した起源をもっているのではないかと論じる。
以下の論文をもう少し読んでみよう。
Siviy SM. A Brain Motivated to Play: Insights into the Neurobiology of Playfulness. Behaviour. 2016;153 (6-7): 819-844.
この研究によれば、ラットには「遊びの脳内回路」がしっかりあり、それが系統発達的に受け継がれてきているのだろう。中脳水道周囲灰白質(PAG)という快感に関係する部位が興奮する。つまり遊びが快感を呼び起こすのだ。要するに遊びは強烈な快感を引き起こすために、ラットは成長の過程でそれを回避することはまずありえない。そしてラットは彼らにとっての「思春期」に至るまで、ジャレまくるという (Panksepp,1981)。それは生後35日がピークに当たるそうだ。(はやいな!)そして興味深いことに、じゃれあうカップルは抑えたりたたいたりを大体均等に行うという。つまり追っかけたり、追っかけられたりが交互に行われ、決して一方から他方への追跡行動が続くわけではない。もしそうであればパワハラになってしまうのだ。ここがとても大事である。 またジャレ合いはラットが隔離されている時間に比例して起こるという。つまりしばらく隔離されていると、より激しく長時間遊ぶという。