なおPRPにも直接携わった Kernberg(1999)は後に分析的な治療を「精神分析的な様式の治療 psychoanalytic modalities of treatment 」と一括りにして、その中を「精神分析」、「精神分析的精神療法」、「精神分析を基盤とした支持的精神療法 psychoanalitically based supportive psychotherapy」 に分類した。そして精神分析的精神療法は通常は最低週2回のセッションが必要であるとし、そうすることで転移の発展と患者の日常の現実の変化の両方を探ることができると明言する(p.1081)。この主張は、週2回以上を精神分析的ととらえた前出の藤山氏の主張と共通している。また Kernberg はそれ以下の週一回の支持療法では、転移に専念するのではなく、患者の現実の世界における進展を扱うことに費やすべきであるとする。 Kernberg O.F. (1999) Psychoanalysis, psychoanalytic psychotherapy and supportive psychotherapy: contemporary controversies. Int J Psychoanal.80 ( Pt 6):1075-91 ちなみにこのKernberg の考えを反映する形で提唱されたのが TFP(転移に焦点づけたセラピー transference focused psychotherapy. Clarkin, 2007) である。このTFPはBPDの治療を目的として始まったが、他の障害を持つ患者についてもその対象を広げている。TFPではその名の通り患者と治療者の転移関係における明確化、直面化、解釈が治療の主流となる(Gabbard, 448)。しかも治療早期から、転移の中でも特に陰性転移が扱われるとのことであるが、治療頻度はやはり上記の「精神分析的精神療法」と同様に週2回となっている。 以上のKernberg らの立場は、転移を積極的に扱う手法は週2回でも可能であるとみなす具体例と言えよう。ただし精神療法と精神分析との関係についての頻度という観点からの論述は少なく、転移解釈は週2回以上という見方が一般の分析的な臨床家たちのコンセンサスを得ているかは明言できないことになる。 現在において精神分析と精神療法との関係性、および頻度の問題についてより包括的な立場を提示しているものとして、Glen Gabbard のテクストが挙げられよう。 Gabbard の「精神力動的精神療法」(狩野力八郎 監訳、岩崎学術出版社、2012年)は米国における精神医学の基本テキストとして用いられ、邦訳を通して私たちにも馴染み深い。Gabbard は上述の表出的、支持的という分類に関して「治療者の介入の表出的―支持的連続体」(以下、「連続体」)を提示する。これは表出的な極に近いものから順番に、「解釈」、「オブザベーション」(※)、「直面化」、・・・・として「心理教育」、「助言と称賛」と進んで支持的な極に至るというものである。そしてどちらの極により近いかにより、精神療法を表出的精神療法と支持的精神療法に分類する。この連続体に基づく「表出的療法か支持的療法か」という分類は相対的なものであるが、便宜上このように分けたうえで、面接の頻度に関しては、表出的では2,3回、支持的では週一回あるいはそれ以下であるとしている。さらに「週一回未満の低頻度」(※※)では「転移に焦点を当てることは難しくなる」とある。 このGabbard の分類によると、週一回は支持的精神療法に分類され、そこでの介入も「連続体」の上では解釈などの表出的なものよりはむしろ心理教育、助言などの支持的なものが主体となる。ただしこの「連続体」の理解に則ったものという意味ではそれも依然として精神分析的な介入ということが出来るのだ。 ところで注意を要するのは、Gabbard は表出的な介入としての解釈を第一義的なものとは必ずしも見なしていないということである。むしろ「転移は治療の妨げになる時には解釈する必要がある」(p.79)という理解のもとに、それに至るまでの防衛の解釈により重きが置かれるべきであるという考えが示されている。すなわち精神分析が転移の解釈を扱う特権を有するというニュアンスは薄い。これは Gabbard が提唱する多元的なアプローチの文脈からはより理解可能な姿勢と言えるだろう。 (※※)邦訳では「しかし週一回以下の・・・低頻度では転移に焦点を当てることは難しくなる(p79)」と記載されているが、ここには翻訳上の問題がありそうだ。相当する箇所は原書(p.66)では “long-term psychodynamic psychotherapy is extremely difficult to do at frequency less than once a week, because ・・・ it is difficult to focus on transference issues at lesser frequencies. (p66) Gabbard (2004) Long term Psychodynamic Psychotherapy A basic text. American Psychiatric Publishing. Washington DC.
(以下略)