2025年4月20日日曜日

遊びと愛着 3

 Siviy の論文はバリバリの理系の研究者によるもので、生物学的な知見が豊富だが、こちらの理解がなかなかついていかない。しかしそれでも我慢して読んでみる。 前頭葉におけるノルアドレナリンのα-2拮抗薬は遊びの抑制をブロックし、ノルアドの再取り込み阻害剤は遊びを抑制する、とある。これも興味深い。要するに交感神経が興奮するような非常時には遊ぶどころではない、というわけか。P8にはc-fos (レトロウイルスのがん遺伝子v-fosのホモログであるがん原遺伝子(ヒトではFOS)にコードされるタンパク質)の関与についても書いてあるが、チンプンカンプンなので飛ばす(Siviy p.9あたり)。次のドーパミンやオピオイドの遊びへの関連はとても分かりやすいぞ。特に内因性オピオイドの側坐核への放出は遊びに深く関係しているという。遊びというと心地よいもの、楽しいものと考えるのが常識だが、この報酬系との関連がそれを証明しているというわけだ。 結論としては、前頭葉、線条体、扁桃体のそれぞれが協調して働くことでじゃれ合いが生まれるということ。そして幼少時から遊ぶことが出来るということは刻々と移り変わる社会的、情動的、認知的なランドスケープを生き抜くために重要である、とのべて Vanderschuren & Trezza (2014)の論文を参考にあげている。 Vanderschuren, L. J. M. J., & Trezza, V. (2014). What the laboratory rat has taught us about social play behavior: Role in behavioral development and neural mechanisms. In S. L. Andersen & D. S. Pine (Eds.), The neurobiology of childhood (pp. 189–212). Springer-Verlag Publishing/Springer Nature. そこでこの論文の抄録をちょっと読んでみるが、この Siviyの論文に網羅されていることばかりだ。特にラットをしばらく隔離しておくと、より多く遊びをしたがるというのは彼らの研究らしい。ただ一つ思ったのだが、治療場面で遊ぶという現象は、この隔離と関連しているのかもしれない。その遊び回路が十分な量の興奮を欲しているということか。しかしそれは安全な環境でしか発揮できないというわけである。 ここらあたりでたくさん学ばせてもらったSiviyの論文を離れ、Peter Smith らのかなり新しい2022年の論文を読んでみる。実はこの論文が重要なのは、動物などで様々に研究されてきたRTPの重要さと異なり、人間にとってのRTPは果たして発達促進的なのか、それとも暴力を誘発するものなのかの議論がなかなか定まらないという事情を扱っているからなのだ。 Smith, P. K., & StGeorge, J. M. (2022). Play fighting (rough-and-tumble play) in children: developmental and evolutionary perspectives. International Journal of Play, 12(1), 113–126.