ここで遊びに関して一番エビデンスを与えてくれる動物実験を紹介しよう。ベルリンのフンボルト大学の研究チームは、ラットの脳内に「笑いと遊び心を制御する神経回路」を発見したと報告した。(「ナゾロジー」のサイトから)https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/130792#google_vignette
ラットはとにかく遊び好きらしい。youtube でも人がラットと遊ぶ動画がたくさん出てくる。私たちはペットの犬や猫が遊び好きであることはよく知っているが、ラットも相当の遊び好きであり、実験者とキャーキャーと声をあげて騒ぐという。しかし人間の子供が遊ぶときキャーキャーというが、ラットのそれには馴染みがないのも無理はない。なぜならラットの嬌声は高周波の超音波レベル(50~55KHz )で、人には聞き取れないからだ。
それはともかく研究者はラットの実験を通して、遊びが生物に共通した起源をもっているのではないかと論じる。しかも遊んでいるときは中脳水道周囲灰白質(PAG)という快感に関係する部位が興奮する。つまり遊びが快感を呼び起こすのだ。
さてラットが特に好むのが、いわゆる「喧嘩ごっこ」、後に述べるじゃれ合い(rough and tumble play) であり、それは偽りの攻撃と偽りの防御を交互に演じることになる。そしてもしラットのPAGを破壊すると、くすぐられても声をあげず、遊びに興味を失ってしまうのである。
以下の論文をもう少し読んでみよう。
Siviy SM. A Brain Motivated to Play: Insights into the Neurobiology of Playfulness. Behaviour. 2016;153 (6-7): 819-844.
この研究によれば、ラットには「遊びの脳内回路」がしっかりあり、それが系統発達的に受け継がれてきているのだろうという。遊びは強烈な快感を引き起こすために、ラットは成長の過程でそれを回避することはない。そしてラットは彼らにとっての「思春期」に至るまで、ジャレまくるという (Panksepp,1981)。それは生後35日がピークに当たるそうだ。(はやいな!)そして興味深いことに、じゃれあうカップルは抑えたりたたいたりを大体均等に行うという。つまり追っかけたり、追っかけられたりが交互に行われ、決して一方から他方への追跡行動が続くわけではない。もしそうであればパワハラになってしまうのだ。ここがとても大事である。またジャレ合いはラットが隔離されている時間に比例して起こるという。つまりしばらく隔離されていると、より激しく長時間遊ぶという。
さてSiviy などの論文にも出てくる、 social rough and tumble play RTP) には「喧嘩ごっこ」とか「乱闘遊び」などの訳もあるようだが、「じゃれ合い」でいいのではないか。荻本快先生の論文(2014)によれば「RTPには定訳がないので『乱闘遊び』という表現を使う」とある。確かにネットで「じゃれ合い」の英語表現を探すと playing around、 horsing around と出てくる。でもこれらは「戯れる」というニュアンスであり、「ジャレる」にあるラフで手荒な要素はあまり表現されていない。ということで私はRTP=じゃれ合いという風に適宜言い換えることにする。
荻本快(2014)幼児の自己制御を育む父子遊びの発達力動理論-介入プレイ観察による力動理論の構成 Educational Studies 56 81‐88 International Christian University.