2025年10月5日日曜日

遊戯療法 文字化 5

  この図(ここでは省略)は対話をしている二人の人間の脳波が特に右脳において顕著に同期化していることを示すが、ショアはこのような同期化が愛着関係においても、そして精神療法においても起きているであろうと論じているのである。

三番目のジェレミー・ホームズは「愛着に基づく精神療法 (attachment-informed psychotherapy(AIP))」を提唱している。これは Jeremy  Holmes, Arietta Slade により提唱され、MBT(メンタライゼーションを基礎とする治療)と近縁である。彼によれば愛着は精神療法全体に浸透しているテーマである。そしてAIPは治療者・患者の同期化 synchrony により、愛着の感受期を再開し、それまでの前提を再構成するという。AIPの原則は徹底した受容 radical acceptance であり、そこでは治療者は患者の情緒的、関係的な世界の validation を行ない、それは解釈や変化を促すことに先立って行われなくてはならない。またメンタライジングにより、前頭皮質—扁桃核の結合が強化される。AIPは親密な関係における誤解や破綻、そして安全基地や治療者の脳の貸与 Borrowed brain of the therapist による修復は不可避的なものと考える。このように心と心の出会いを非常にサイエンティフィックに論じたのがこのホームズであると言える。 

 以上述べたフォナギー、ショア、ホームズに共通した視点があることにお気づきであろう。治療とは愛着関係を再現し、そこで治療者・患者の間の心の、生理作用の、脳の同期化を治療作用と考えるという視点である。これは分かりやすく言えば、心理療法の世界は結局H.コフートやC.ロジャースの理念に回帰しているともいえるということである。治療機序としての治療者の共感は、患者の側の共感力を育て、それは脳科学的にみれば脳の同期化というプロセスを介しているということだ。

 ところでこの最後のホームズの理論の中で、特にこの脳の同期化と言うことをより詳細に論じている部分があり、その理解は以下のこの論考の論旨にとって重要である。ホームズは同期化、シンクロが起きるプロセスで鍵となる概念はいわゆる「予測誤差最小化」とであるという。彼は相手と同期化するためには、相手の動きを予測して、実際の動きとの答え合わせをし、予想外の部分、つまり誤差の部分を常に小さくするというプロセスが働いていると説く。この「予測誤差最小化」という耳慣れない概念がいきなり登場することはいかにも唐突な印象を与えるかもしれない。ちなみにこのPEMの概念は、カール・フリストンという人の唱えたいわゆる「自由エネルギー理論」に基づく概念である。