2025年10月4日土曜日

遊戯療法 文字化 4

 このボストングループを率いていたのがかのダニエルスターンである。一昔前に日本でも盛んに話題になったスターンの著書「乳児の対人世界」(1985)をご存じの方も多いだろう。彼は実証的な研究(母子の交流を録画して細かく分析するミクロ分析をとおして、乳児の心的世界の解明を試みた。そして同書で「精神分析の発達理論として描かれた乳児」と「発達心理学者が実際の観察をもとに描く乳児」とを統合し、そこから乳児の主観的世界を「自己感」の発達として見直したのである。

 スターンの著書「出会いのモーメント」はその彼の立場を鮮明にした本であるが、そこで彼は「出会いのモーメントmoments of meeting」は伝統的な治療的枠組みが壊される危険にさらされる時に起きる」として、以下の例を挙げている。(スターン,2007,p.25)

被分析者がやり取りをやめ「私のこと、愛していますか?」と聞く時。患者が何かおかしいことを言い、二人が大笑いをする時。患者と治療者が外出先で出会い、何か新しい相互交流的、間主観的な動きが展開する時。これらの例はスターンが出会いのモーメントとして具体的にどのような瞬間を言おうとしているかをよく表していると言える。

ここで精神療法を愛着理論と結び付けた三人の現代的なアナリストを紹介したい。彼らとはピーター・フォナギー、アラン・ショア、ジェレミー・ホームズの3人である。それぞれの理論を簡単にご紹介しよう。

フォナギーらは「メンタライゼーションに基づく治療」MBTを提唱した先生であるが、彼らのいうメンタライゼーションとはわかりやすく言えば、人の心に共感し、相手がどんなことを考えているのだろう、ということを考えることである。それはいわば心をシンクロ(同期化)させることであり、さらに具体的には患者が相手の心を通して自分を見るという作業を意味するからだと言う。そしてこれは実は愛着期の子供と母親の関係に似ていると言える。そして実際にフォナギーはウィニコットが描いたような母子間の心のつながりを治療として描いている。

 次のアランショアは、最近小林隆司先生の翻訳などを通じてご存じの方も多いとであろう。彼の「右脳精神療法」においては、母子間の心のシンクロが、特に右脳同士で生じると主張する。

 乳児期は右脳の機能(愛着、間主観性、社会性)が優位で、愛着を通して母親と子供の右脳の同調が生じるとし、母親は眼差しや声のトーンや身体接触を通して乳幼児と様々な情報を交換しているということ、そして母親との愛着は乳児の情動や自律神経の調節に寄与するということを強調する。ショアの視点というのは、患者の多くはこの愛着の段階で問題が生じており、一種の愛着不全、あるいは彼のいう愛着トラウマの犠牲となっているという。すなわち母子の間で右脳のシンクロが起きないと、乳児は右脳を鍛えられず、右脳の機能としての他人に共感したり、情緒的な関係を持ったりということが出来ないと考えたのだ。そしてこの右脳のシンクロとして、Guillome Duma の研究を示す。