2025年5月14日水曜日

遊びと愛着 推敲 4

 Siviy の論文を読んでいくと、色々興味深いデータがある。特に早期の母子関係が遊びに深く関係するという点について論じている。親からの LG (licking and grooming,ぺろぺろ舐められ、毛づくろいをしてもらうこと)が高値のラットは、怖れが少なく、新しい環境での探索をし、驚愕反応も弱いという。そして毎日15分ほど母親から分離されたラットは不安が少ないという。ただしラットは LG が低ければ遊びが増すという研究もあり、このLGと遊びの関係についての研究は相当ややこしい。(ちなみにラットの母親からの分離がなぜ不安を軽減するかについては、結局私自身がその意味をつかめていないが、のちの宿題として先に進む。)  また中枢神経興奮薬(amphetamin, methylphenidate ) などは遊びを抑制するという。そしてそれは遊びの際のノルエピネフリンの量の低減が抑えられるからだという。そして一般に前頭葉におけるノルアドレナリンのα‐2拮抗薬は遊びの抑制をブロックし、ノルアドの再取り込み阻害剤は遊びを抑制する、とある。  以上の所見はとても興味深い。遊びと緊張や興奮とは、ある意味で対置的ということかもしれない。遊びはリラックスしていることがその成立条件なのだろう。交感神経が興奮するような非常時には遊ぶどころではないというわけである。  さらにはドーパミンやオピオイドの遊びへの関連も書かれているが、これも興味深い。特に内因性オピオイドの側坐核への放出は遊びに深く関係しているという。遊びというと心地よいもの、楽しいものと考えるのが常識だが、この報酬系との関連がそれを証明しているというわけだ。  結論としては、じゃれ合いは前頭葉、線条体、扁桃体のそれぞれが協調して働くことで生まれるということ。そして幼少時から遊ぶことが出来るということは刻々と移り変わる社会的、情動的、認知的なランドスケープを生き抜くために重要である、とのべて Vanderschuren & Trezza 2014)の論文を参考文献として挙げている。 Vanderschuren, L. J. M. J., & Trezza, V. (2014). What the laboratory rat has taught us about social play behavior: Role in behavioral development and neural mechanisms. In S. L. Andersen & D. S. Pine (Eds.), The neurobiology of childhood (pp. 189–212). Springer-Verlag Publishing/Springer Nature.  そこでこの論文の抄録を読むと、ラットをしばらく隔離しておくと、より多くの遊びをしたがるという研究結果が得られているという。これは治療場面で遊ぶということの意味を考えさせられる。ラットは本来一定量のじゃれ合いを生理的、心理的に欲していているが、それは安全な環境でしか発揮できない。そして治療場面がその役割を果たすという発想がありうるであろう。