統合失調症との鑑別
ここまで解離性の幻覚についてこれまで論じてきたが、ここで特に統合失調症との鑑別で論じることには特別の意味があるであろう。というのも従来幻覚体験、特に幻聴はしばしば統合失調症にとって極めて特異的な病理ん現象として理解される傾向にあったからである。
このテーマに関しては柴山の記述を参考にしよう。(柴山雅俊(2017)解離の舞台 症状構造と治療 金剛出版.)
P209では「第14章 解離性障害と統合失調症」として知覚異常に触れている。特に解離性障害で見られる幻聴には二種類ある、と明記している。
1.フラッシュバック しばしばこれが解離性幻聴であるとされがちだが、その一部にすぎないとする。
2,交代人格(不全型も含む)に由来する幻聴。特に「死んでしまえ」などの攻撃的なものや「こっちにおいで」という別の世界へ誘いかける内容などで、これはフラッシュバックとは異なる、としている。さらに解離性の幻聴は、患者の気分との連続性が見られることが多い、とも言う。そして幻聴の主を対象化、すなわち特定できることが多く、これは統合失調症の際の把握できない、不明の主体であることとかなり異なるとする。そして柴山が特に強調するのが、統合失調症における他者の先行性という特徴だ。少し長いが引用しよう。
「概して統合失調症の幻聴は、自分の動きに敏感に反応して、外部から唐突に聞こえる不明の他者の声である。そこには自己の医師や感情との連続性は認められない。その声は断片的であり、基本的にその幻聴主体を対象化することは不可能なものとしてある。幻聴の意図するところは、常に把握できない部分を含んでいる。従ってその体験はある種の驚きと困惑を伴っている。それに対して解離性障害では、他者の対象化の可能性は原理的に保たれており、不意打ち、驚き、当惑といった要素は少ない。」