2025年6月19日木曜日

加藤隆弘先生への討論

 先日精神分析協会の集まりで、高名な加藤隆弘先生(北海道大学精神科教授)の講演の討論者として話す機会があった。

以下はその抜粋である。


加藤先生の行なった画期的研究では、いわゆる信頼ゲームを、ミノサイクリンを内服する被検者とコントロールで比べたというものです。するとミノサイクリン内服群(すなわちマイクログリアの活性を抑えられた人たち)はこの信頼ゲームにおいて強面の男性プレイヤーや、魅力的な女性プレイヤーに対する過剰な協調的行動が抑制されたということです。そしてそれがマイクログリアによる生の本能や死の本能との関りを意味しているのだということですが、その働きはかなり込み入っているようです。自分の理解のために整理していると、それは以下の項目にまとめられました。

  • MG(マイクログリア)の高活性と鬱や自殺、トラウマ、拘束との関連性。

  • MG活性低下で強面や魅力的な女性に協力しなくなった。逆に言えば、MGは怖さや魅力により判断力にバイアスをかけるという可能性。

  • 無意識のノイズ、ある時はイド,ある時は超自我、すなわち意識化されていないレベルでの影響。

  • ただしMGは生の本能:炎症を抑える、脳保護的なサイトカイン(BDNF)をも放出する。しかしMGは諸刃の剣であり、死の本能もつかさどる(炎症を惹起するサイトカイン(TNF-α, nitric oxide)の放出。)


さて加藤先生のご発表の一番キモの部分です。加藤先生の神経―グリアネットワークという概念について。これは次のようにいうことが出来るでしょう。

AIはニューラルネットワーク(NN)のみから構成されるが、脳はそこにグリアが入っていて「ニューラルグリアネットワーク、NGN」と表現することが出来る。そしてこのグリア、特にマイクログリアが様々なノイズ、あるいは分析的な概念ではエスや超自我、ないしは転移、逆転移を生み出すことで私たちは中立になれない。すると私たちが行う分析のトレーニングは、グリアをコントロールし、支配下に置くためのものである、という考えです。これは素晴らしい発想だと思いました。まさに脳科学を心の科学に結びつける理論だと思いました。


         (以下略)