2025年6月9日月曜日

遊び 推敲の推敲 2

昨日の続き。そのような考え方に基づいた治療法の例が二つある、一つは最近の「愛着を基盤とした精神療法」(J.Holmes)であり、もう一つは「右脳精神療法」(A.Schore)である。 最初の「愛着を基盤とした精神療法」の提唱者であるHolms の主張のエッセンスをまとめると以下のようになる。「治療者―患者の脳生理学的な同期 synchrony を重視し、それが治療に変容性を与える瞬間 mutative moment であると考える。そしてそのために治療者は徹底した受容 radical acceptance を心がけ、分析的な解釈に先立つものとして患者の情動的で関係性の世界の保障 validation を重視すべきであるとする。さらにメンタライゼーションは前頭葉-扁桃核の神経連合を促進するものとしてとらえる。」

Holms は子供は胎内にいるころから、心拍数、HPA軸の活動、オキシトシンなどに関して母親と同期化するという。Mary Ainsworth はそもそもそれを安定した愛着の基礎と考えたという。実際に子供が生まれると母親は子供を観察して子供の泣き声に合わせた声を出したり、あやしたりおっぱいをあげたりするが、これは母親がこうして子供に同調することで安定した愛着を形成するための行動だ。そしてこのことはおそらく精神療法についても言えるのだ。すなわち治療者と患者の間の同期現象である。ここら辺の議論は Schore の著作に詳しい。「右脳精神療法」の中で、Schore は対人交流とは脳間同期 interbrain synchronization に関係すると述べる(p.2)。Dumas という研究者によると、交流している人たちの脳波の右脳同志の同期化が顕著にみられるということである。  この同期化とはどういうことかについて Holms が考えるのが、メンタライゼーションである。お互いを予測し、その心の状態を知るというプロセスが、この同期化への道ということになる。 ただし私は精神療法においては愛着関係を重視しましょうというスローガンを掲げるつもりはない。なぜなら精神療法の関係において幼少時の母親との関係をことすらに再現しようとすることも、患者の治療者に向ける転移に母親転移的なものを重視したり、それを促進したりしましょう、というのもどうもぴんと来ない。患者は現実における関係性、例えば上司や配偶者との問題に悩んだりしているかもしれないし、彼の中の依存欲求を扱うことがその人にとってベストであるとは限らない。ところが愛着的な側面が賦活され、扱われることの意味はそれでも大きく、いわば一時的な退行現象として、ちょうど Ernst Kris のRISE(regression in the service of the ego)の概念に似た現象がありうると私は考える。それが遊びの要素なのである。そのような時私はふと思うのだ。ああ、「自分はプレイセラピーをやっているんだな」と。これはどのように説明できるかは分からないが、一つのヒントは、上記の Holms のとらえ方なのだ。