2025年5月3日土曜日

精神力動的な立場からのパニック・不安の理解 2

 パニックや不安への力動的なアプローチ

 現代の力動的な治療者は、これまで述べた脳生理学的なメカニズムを理解し、患者の体験するパニックや不安の引き金や遠因となる様々なストレス因やトラウマ記憶について把握する必要があるだろう。そして当面は毎日の生活において生じるパニックをいかに回避するか、あるいはその症状を軽減するかというかなり現実的な対処を求められることになる。現在の精神医学においてこれらの症状に対する治療手段としてはCBTや薬物療法が主流と考えられることは十分理解できる。薬物療法は患者において過剰に働いているタクソンシステムに働きかけるという、いわばボトムアップ的なアプローチと言えるであろう。コゾリノは暴露、反応予防、リラクセーショントレーニングはいずれも扁桃体の記憶システムに保存された無意識的な連想 unconscious assotioation の条件付けを弱めるような働きを有するという(p.248)。

 しかしパニックや不安を抱えた患者を力動的に扱う際には、海馬―皮質系のロカールシステムに働きかけるようなトップダウン式の治療もまた必要となる。そしてそこにはCBTやストレス免疫療法を含めた(p.248)あらゆる言語的な介入が含まれることになる。

力動的な介入には欠損モデルないしはトラウマモデルに基づく考え方が必要であることはすでに述べたが、そこにはその人の生来の気質や幼少時の愛着その他の養育上の問題、そしてその後の人生におけるストレスやトラウマの影響を考える必要がある。
もしパニックや不安がかつて体験したトラウマや心的ストレスに関係していることが比較的明らかな場合、それらの記憶のフラッシュバックが誘因となりパニック発作が生じている可能性がある。その際その過去のトラウマをいかにあつかうかが臨床上重要な治療的課題となる場合が多い。ただし治療者はひたすら患者の過去のトラウマ記憶を扱えばいいかと言えばそうではない。トラウマ記憶の不用意な扱いは再外傷体験を生み、フラッシュバックの頻発を生むかもしれない。 しかしトラウマ記憶を回避することだけが望ましいかと言えばそうではない。フロイト以来分析家が気が付いていたのは、恐怖症の患者に関しては患者は恐れている状況に直面しない限りはほとんど前進がない(2003,p835)という問題がある。これは上記のタクソンシステム自体の持つ強烈な反応性を緩和するというアプローチに通じる。