2024年7月5日金曜日

PDの臨床教育 推敲 11

以上の5つの特性をうんとかみ砕いてみよう。

1.情緒安定性 ⇔ 神経症性(否定的感情) 

何時も気持ちが安定していて落ち着いているという傾向 ⇔ 気持ちが不安定で、というよりは怒りや悲しみと言った負の感情を体験しやすいという傾向と言い直すことが出来るだろう。ここで「否定的感情」のかわりに「肯定的感情」を考えたなら、喜び、安心感ということになるが、それらを体験している人は結局は「心が安定している人」ということだ。だから「肯定的感情⇔否定的感情」としなくてもいいのだ。あるいは「陽性感情⇔陰性感情」と言い直すとわかりやすいかも知れない。これはわかりやすい特性と言えるが、それを情緒安定性⇔神経症傾向、などと言うからわからなくなるのだ。


2.外向性 ⇔ 内向性(孤立傾向)

人と交わることを好むか、孤立を好むかという対立軸で、これもわかりやすい。そしてこれは1.肯定的、否定的感情の問題とは別の話だ。感情的な人が他人を巻き込む場合には、かなり迷惑な存在になるだろう。他方では人嫌いだが、それに満足する人もいるだろう。
 ただし孤立しがちな人が否定的な感情を持ちやすいのではないかというassumptionを私達は持ちやすいとは言えるのではないか。孤立を好む人は対人接触をストレスに感じ、怒りや憎しみをそれだけ表現しやすいということもあるだろう。だから1と2が完全に相関しないかは疑問ではないか。


3.同調性 agreeableness ⇔ 対立 antagonism

人と和するか、それとも対立するか。これも2と同じ議論になりそうだが、次のような疑問が生まれる。「人と同調しやすい人は、外向性も高いということになりはしないか?」「孤立がちな人は、周囲になびかないから、対立的と言えないだろうか?」うーん。そんな気もしてくる。つまり2,3はある程度相関があるのではないだろうか。


4.脱抑制 disinhibition ⇔ 誠実性 conscientiousness

実はこれが一番わかりにくい気がする。脱抑制的な人は思い付きで行動し、感情表現をする。衝動的、と言ってもいい。「誠実」な人はルールを守り、周囲に迷惑をかけないというわけだ。これは2とも3とも従属的な関係を持ちそうだ。突飛な考えをする人は、対立傾向が高くなるだろうし、すると結果として孤立してしまうというパターンを考えやすいからだ。逆に周囲に気を遣い、ルールを守る人は周囲とうまくやり、孤立することは少ないだろう。ところでこの後者のconscientiousness を「誠実性」と訳しているわけだが、もっとピッタリなのは「思慮深さ」ではないだろうか。あるいは入念さと言ってもいい。そしてこの対は「衝動的⇔思慮深い」という言い方をすると最もよくわかるのだ。


5.精神病性 ⇔ 透明性 lucidity 

これもまたよくわからない。先ほどはこれを「奇妙な思考をするタイプ⇔常識タイプ」と言い換えたが、そもそもlucidity 透明性、というのが分からない。しかしlucid で英和辞典を引くと、1.澄んだ,透明な。2.頭脳明晰(めいせき)な。3.わかりやすい,明快な。とある。つまり明快で誰にでも理屈が分かるという意味だ。lucid explanation というと「透明な説明」とは絶対に訳さない。「明快な、わかりやすい説明」なのである。だからこれを言い換えると、「奇矯さ ⇔ 分かりやすさ」がぴったりくる。