2023年2月8日水曜日

共感の脳科学 4

  共感は色々に定義されているが、一応「reactions of the individual to the observed experiences of another 他者の体験を目にした際に人が示す反応」(Davis,MH (1994) Empathy. Madison, WI:Brown and Bebchmark)ということらしい。

共感 empathy は独語 Einfühlung ("feeling into" something)の直接の訳語だと言われる。いくつかの類義語があるが、sympathy, empathic concern, compassion は、必ずしも同じ気持ちを持つというわけではない。これらの気持ちは、ある感情を持つ他者に対する気持ちである。Feeling for つまり悲しい人に対して悲しくなるのは sympathy だけということになる。
 ここでToM(心の理論)に関する論文を少し念入りに読んでみる。
Dvash,J, Shamay-Tsoory, S. (2014) theory of Mind and Empathy as Multidimensional Construct.  Topics in Language Disorder, 34.4 pp.282-295.
 どうやら empathy について、情動的、認知的と分けることはToMの論者でも常識なのだが、こんなことになっている。

▰ 認知的共感(メンタライジング)

 ▽  認知的 ToM ネットワークmPFC(内側前頭前皮質), STS上側頭溝, TPJ側頭頭頂接合部、temporal pole(頭頂極)

▽  情動的 ToMネットワーク(vmPFC

▰情動的共感(扁桃核、島)

 この様な分類は聞いたことがなかった。認知的共感をさらに認知的ToMと情動的ToMに分けるなんて。つまりこういうことだ。相手が何を感じているかを認知的に知ることが認知的ToM、相手が何を感じているかを認知的に知ることが情動的ToMというわけだ。前者は自動的に感じ取るのではなく、意図的な知的な努力により行われるものである。「それに比べて情動的な共感は少なくとも大雑把な、つまり快か不快か、というレベルでその感情を身にまとう appropriateことであるemotional empathy includes appropriating these feelings, at least on a gross level(pleasant-unpleasant) Mehrabian & Epstein, 1972)) (同論文p.283).

この「身にまとう」という訳には苦労した。appropriate には着服する、などの意味がある。では痛みを感じている人の痛みを appropriate するとはどういうことか。もちろんその痛みの質感などは、当人になってみないとわからないが、少なくとも一緒にある種の苦痛を味わう、ということだろう。これが先ほどの gross level での体験ということになる。

さて認知的ToMについてはすでに述べたとおり、mPFC, STS, TPJ,temporal pole が関係している。ここで論文はmPFCTPJの機能の違いについて詳細に書いているが、難しいので省略(p.286)。

情動的ToMについては、vmPFCがもっぱらつかさどることになるが、面白いことに内側前頭皮質 mPFCが二つに機能分化していると書いてある。

dmPFC 背内側前頭前野 認知的、対人的 interpersonal

vmPFC  副内側前頭前野 情動的、個人内的 intrapersonal

ということらしい。