2022年9月11日日曜日

高機能のサイコパス 1

高機能のサイコパス

 サイコパスのことを、この犯罪心理学会で先生方にお話するのは釈迦に説法という気がする。というのも私はサイコパスの問題には以前から非常に興味を持っているが、それは彼らがただの欠損というだけでなく、一種の才能を有しているかのようなことが言われているからである。何しろ良心が普通にある私達には考えられないようなことを平気ですることが出来るからだ。

 まずこの「高機能のサイコパス」とは何かということを最初にお話してから、サイコパスという病理そのものの話に戻りたいと思う。

 普通用いられている意味は、これは「暴力的な傾向を持たず、社会で成功を収めている人々である。」「ヘア・チェックリストの4因子中3因子(浅薄さ、冷たさ、信頼性の欠如)を満たすが、反社会的傾向はないとも言われる」(Fallon :サイコパスインサイド 2006ホワイトサイコパス、などの表現も見られます。この高機能のサイコパスの存在が投げかけてくる課題があります。それは

1.社会的な成功者はことごとく「高機能のサイコパス」なのか? ということです。

2.「高機能のサイコパス」は特殊な才能 talent を有する人々なのか? そして最後にこの発表のテーマである、

3.高機能のサイコパスに心理療法は有効か?(「純系のサイコパス」には無理だが)ということです。

ところでサイコパスに関する議論を盛り立てた人たちとして二人を挙げることが出来る。それは1930年にMask of Sanity という本を書いて広く読まれたHarvey Cleckley であり、それに影響を受けこの問題について深く論じ、サイコパス度についてのチェックリストを作り上げたRobert Hare である。この後者は「診断名サイコパス」という題名がつけられ、わが国でも広く読まれている。私もとても感銘を受け、サイコパスの問題がいかに興味深く、私たちの生活にとっても身近な存在なのかについて教えてくれたのがこの本である。

 Robert Hare はまた本発表の主たるテーマである高機能のサイコパス、知的なサイコパスについても「スーツを着た蛇」(日本の題名は「社内の知的確信犯を探し出せ」という本を2006年に書いている。そしてこの二冊は高機能サイコパスという本発表のテーマに関して私に大きな影響を与えた二冊である。Kevin Dutton の「サイコパス・秘められた能力」とJames Fallon の「サイコパスインサイド」である。この後者は後でも述べるが、サイコパスの脳科学者が書いた自分自身の有するサイコパス性についての記述である。