だいたいテクストが定まってきた。
1概念と病態
この章では限られた紙数ではあるが、まずパーソナリティ症の概念及び病態について論じ、次に疫学的な考察に触れ、さらに診断と治療について論じる。
1 概念と病態
PDの本質をどのように理解すべきかについてはさまざまに論じられてきた。DSM-5はそのような歴史を踏まえて以下のように包括的に定義している。
「その人が所属する文化から期待されるものから著しく偏り、広汎でかつ柔軟性がなく、青年期又は成人期早期に始まり、長期にわたり変わることなく、苦痛又は障害を引き起こす内的体験及び行動の持続的様式である(DSM-5)」そしてそれは認知、感情性、対人関係機能のうち二つ以上に見られるとする。この定義ではそれが始まる時期として青年期以降と定めている点が特徴と言える。
他方のICDの定義はより詳細である。
「自己側面における機能障害(例えばアイデンティティ、自己価値、自己主導性のキャパシティ)及び/又は対人機能における問題(例えば親密で互恵的な関係性の構築と維持、他者の観点の理解、対人衝突への対処)により特徴づけられるような持続的な障害である。」
このDSM-5やICD-11にみられるPDの定義はその本質についての議論を概ね網羅していると考えられるが、この概念の辿った歴史は長く、紆余曲折が見られた。
19世紀にはフランスのBénédict
A Morel (1852-1853) や Valentin Magnan (1886)などによって,心的変質論 dégénérescences mentales)が展開された①②。特にMorel
は変質をダーウィンの進化論の意味における退行や先祖返りと考えた。(アッカークネヒト68)彼はそれを広い範囲の精神障害や病的状態と関わる遺伝的特質や体質的異常のためであるとし、一部の人々の示す異常な行動を親から子に遺伝しながら障害としてとらえた。これは解剖学的には変化のみられない精神疾患を病因論的に分類するという試みであり、当時全盛だったダーウィンの進化論と深く結びついていた(アッカークネヒト、p65)。その考えは J-M Charcot に至るまでフランスの精神医学界を席巻した。