2020年10月3日土曜日

治療論 推敲 1

 

解離性障害の治療に関して最近特に念頭においていることについて、精神分析の立場からここに示したい。精神分析の海外の文献を検索するときに用いるPepwebで解離dissociationを調べると、最近発表数が上昇していることがわかる。Search for Words or Phrases in Context (Use Quotes for Phrases): dissociation調べると、1980から1989までが405件、1990 から1999まで が935件、2000から2009までが1629件、2010から2019年までが2461件、とうなぎ上りである。そしてこれは精神分析の内部にも地殻変動をもたらしかねない。なにしろ解離はフロイトがことさら論じなかったテーマであり、その背後にはBreuer Janet Ferenczi との根深い意見の対立があったのだ。だから精神分析で解離が扱われることにともない、一種のパラダイムの癲癇が起きることになる。それをItzkowitz (2015)は「解離的な転回」と言い表した。

そこで「転回」の論文で提起されていることはいったい何であろう? Itzkowitz先生はこの有名な論文「解離的な転回」の冒頭でこんな風に書いている。

「解離的なプロセスの出現や、解離的な構造を可能性として持った心、複数の不連続的な意識の中心の存在により特徴づけられた心が生まれる鍵となる要因は、幼少時に現実に起きたトラウマである。」「断片化された患者の分析的な治療到達点は、それらのコミュニケーションを図ることである。」The actuality of trauma during infancy and early childhood is recognized as a key factor leading to the emergence of dissociative process, the potential dissociative structuring of the mind and the mind being characterized by multiple, discontinuous, centers of conscious. Therapeutic goal in the psychoanalytic work with fragmented patients is to establish communication and understanding between the dissociated self-states.

Itzkowitz, S (2015) The Dissociative turn in psychoanalysis. The American Journal of Psychoanalysis.75:145–153.

Itzkowitzはサラッと「転回」というが、そのためにどのような理論的な考察が必要かについては触れていない。そこで本稿ではこの提言に表されている3つの論点について考えたい。それらはいずれも従来の精神分析の考え方に大きな展開を迫るからである。

    一つ目は、複数の不連続的な意識の中心という捉え方である。Itzkowitzは「不連続な意識の中心」として特徴付けられる心について扱う必要性を説く。

    二つ目は、トラウマの現実性およびそれと解離との関連性についてである。

    そして三つ目は、治療目標としての、断片化された心の間の連絡を治療目標におくということである。